3-10:探偵泥棒

「探偵という役職を奪う泥棒って世界で初めてなんじゃあないかな」なんていう過大評価から話はスタートした。

 俺は探偵なんかじゃないと否定すると話が逸れてしまいそうでいちいち訂正せずに、ただじっとして泥棒の推理を聞くこととした。

「まあそれは置いて置いて、まず密室殺人は必ず出入りする時の方法がある。あの部屋の窓は閉まっていたんだよね?鍵もかかっていたんだよね?」

 俺は静かに頷いた。

「じゃあ話しを変えるけど、なぜエルザさんをバラバラにしてイルさんは腹にナイフを刺すだけで済んだんだと思う?」

「それはミーシア家に犯人がいてイルさんを殺すのに躊躇したからで、エルザさんはアリスさんと同じく晒しあげたかったから」

 ふっ。と泥棒が笑みを零した。

 心から笑っている。

 嘲笑っている。

「違うとわかってて言ってるんでしょ、というか、この密室の謎をお兄さんは解けているはずだよ。けれどそれを肯定したくない。だから何処の馬の骨かも分からない天才泥棒ちゃんに頼って推理してもらって僕はこの事件に何も関わってはいませんと胸を張って言いたい、けど、それって無理な話じゃないかな?知ってて言わない。知ってて知らんぷりして、お兄さんはいつか後悔すると思う───死にたくなるぐらい」

 俺は何も言わなかった。

 俺は何も言えなかった。

 それが他のどれでもない1番の肯定の意味を表していた。

「まあ、私は代金を頂く身だからとやかくはいえないし、言わない方が良かったのかもしれないけど、これはほんのサービス精神の塊みたいなものだと思って欲しい。話を戻そうか」

 エルザさんがバラバラにされる理由。

 晒しあげたかったからとか精神的なものではなく、合理的な明確な理由があってのことだったら。

「あの部屋はセキュリティ性能がとても高い。なんせイーティアなんていう魔道具があるからね。」

 網膜で判断して鍵を開ける魔道具だ。

「そこがポイントだよ。つまり使。でも、それだと目をくり抜いて鍵に使うためということが露見してしまう───だからバラバラにして見せしめのためだと思い込ませた」

 腹を切ったのもエルザさんから目をくり抜いて鍵にするという行為を隠蔽するための罠。

 そうすれば密室なんて簡単だ。

 まず、エルザさんかイルさんに犯人から大事な話があると言って中に入れてもらう。

 そして、何の躊躇もなく、なんの躊躇いもなくイルさんにナイフを刺す。

 そして気絶させた後、エルザさんを殺してバラバラにする。

 いや、これも違う。なぜエルザさんが毎日朝5時に起きるのか、別に寝るのが早い訳でもない。2時くらいにベットに着く。毎日3時間睡眠の不健康とも思われる生活をしているのだが、別に弁護士が特別忙しいという訳では無い。まあそれもあるのだろうが根本的な理由はそうではない。

 答えは簡単、

 ───不眠症。

 エルザさんは割と重度の不眠症患者だった。そしてその不眠症患者がいつも携帯しているものといえば

 そう、睡眠薬。

 エルザさんは自分が殺されると咄嗟に察してイルさんを眠らせて、死んだふりをさせた。

 罪を擦り付けようとして犯人がイルさんを生かしたのかもしれないしそこは分からないが、目を瞑らせた方が生存確率は上がると考えたのだろう。そして、結果的に生存したのだからその予想は当たっていたのかもしれない。

 それを泥棒に話すと

「へえ。そっか、裏目に出たんだ。《操魔力体》なんていう異能を持ってるんだったら眠らせない方がいいのに。確実に犯人を撃退出来ただろうね、実に愚かだ」

「そんな、愚かなんて!」

「おっと、愚か者はあんあの方だったかな?」

 何故か敵意を泥棒は向けてくる。

「あのさ、そこまで考えられる頭してるんだったらとっくに犯人がわかってそうだけど。それなのにグズグズ何もしないで見てるって、それって殺人犯よりも凶悪じゃないかい?」

「・・・・・・それは、証拠が、ないから」

「証拠がないねえ、つまり仮説はあるってことだろう?今回のエルザさんとイルさんがあんな目にあったのはキミのせいなんじゃないのかい?」

「・・・・・・・・・」

「そろそろ、終わらせたらどうかな?」

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