3-8:殺さないで
結局昨日の夜は考えがまとまらず、色々なことがあった疲れもあってか死んだように眠についてしまった。
時計を見ると10時を回る頃だった。12時に寝ているので計10時間寝ていた計算になる。久しぶりにこんなに寝たのでそれほど疲れていたということだろう。
急いで食堂へ向かうともう料理が用意されていたので、急いで席に着いて咀嚼し始める。
辺りを見渡すとまだ昨日来客した人達がまだ帰っていない。それは考えてみれば当たり前のことでこの事件について万が一露見してしまっては困るからだ。
期待というのは時にプレッシャーになるものだ。
「ダメオさん、エルザを見ませんでしたか?」
エリアさんに話しかけられた。まあ、見ていないので見ていないと伝えると「そうですか」とだけ言って去っていく。どうやら様子がおかしい。
昨日のアリスさんのことが相当こたえたのだろう。
なぜエリアさんがエルザさんを探していたか。
───、今何時だ?
時計の針は10時半を指している。
がたっ。と、急いで席を立ち、3階へと一目散に駆け上がる。周りの朝からなんだという白い目は無視してエルザさんの部屋の前へ立つ。
「エルザさん!」と、大きな声で読んでみるが返事はない。
一昨日ムツキさんにこの家に住んでいる人の全員のスケジュールを俺は叩き込まれていた。エルザさんは早起きで5時に毎日起きている。
だから不審に思ったエリアさんが探していたのだろう。エリアさんが起きる時間が7時だから3時間探し てもいないということ。
ということは───
俺は思い立った時には肩を前にしてタックルをする姿勢を作り、部屋へ突進する。
がん、という木製の物に衝撃を与えた時に出る音が鈍くアラスタル邸に響く。
「待て!何をしている!」
三回くらい突進した頃だろうか、隣から声が聞こえた。この人は確かエルザさん専属の使用人のサツキさんだっけ。
「この中に母さんが閉じ込められているんです」
さっきまでしていた考察をサツキさんに伝えるとどんどん青ざめてくる。エルザさんのモーニングスケジュールを一番把握しているのはこの人なので理解が早い
どん。と、サツキさんが一蹴りドアへ入れると呆気なくドアは壊れて奥へと倒れた。
部屋の中にある窓からさす光で照らされて、
照らされて、
そこで、
思考は、
止まった。
イル・ミーシアにナイフが刺さっている。
お腹なので重症ではあっても致命傷ではないだろう。
じゃあじゃあこの匂いはなんだろう───
地面はただただ赤くて、
所々に散らばっているソレがなにか刹那分からず。
刹那の安心を得て。
刹那の時を過ぎて。
理解して。理解したくないと脳が嘆いて身体が嫌がって目が厭がって鼻が嗅覚を遮断して耳がなんにも聞こえなくて舌が麻痺して肌が感じなくなって。
いや、そうなりたかった。
イル・ミーシアの隣にソレはあった。ソレは人間の価値を留めておらず、まるで人形の作る工程で出てくる材料みたいで。
気持ち悪い。
キモチワルイ。
きもちわるい。
ソレは人間の、いわゆる人間の胴の部分だけで───
───つまり、そこら辺に散らばっているコレらは
「───肉片」
頭、腕、足。
それを何等分にも切り分けたものがこの部屋に散乱していた。壁にかかっている返り血。
そして、目に付いたのは壁にはでかでかと血文字。
『黙って見てろよダメオ』
イルさんの腹に突き刺さったナイフと、バラバラにになったエルザさんを見て、絶句するしか俺のような欠陥品にやれることなどなかった。
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