3-6:モブおじによる宣戦布告
絶望以外何も無かった。
さっきまで悲鳴を上げていた人も、誰かも分からない犯人に文句を言っていた人も今となってはただ下を向いて口を閉じている。
絶望。
誰もがただただ絶望していた。
「アリスが殺された犯人が誰だかわかりました」
テリスが沈黙を破って切り出した。
「まず、どうやって侵入するか。我がアラスタル家には門から敷地内まで徹底的にモニジンが植えてあります。犯人がどうやって侵入したかはすぐにわかるはずなのですが、家中のモニジンの花弁を12人のメイドが調べましたが、誰ひとり怪しいものは映ってはいませんでした」
ただでさえ金持ちの家だ。モニジンという監視カメラがあると知っていて尚、泥棒が入ってくるなんてことは日常茶飯事である。
だが、そこが盲点で敷地内の中心部に泥棒が入るわけが無い。普通は塀を伝ったり、窓から侵入したりするので敷地内の縁とアラスタル邸の周りにしかモニジンを設置していないので敷地の中央に監視カメラなんて設置しているわけが無い。
敷地の中心に盗むものなんてないし。
「つまり、犯人はこの中にいると考えるのが妥当でしょう」
ごくり、と唾を飲む。別に俺がやった訳では無いのに変に緊張感があったからだ。
「死体から出る血がまだ固まり始めていなかったりすることなどから推測すると死亡時刻は僕たちが発見する10分20分前と見れるでしょう。その時間にアリスを殺して中身を取り出し、あまつさえ逃げるなんてことをこなせるのは並の人間じゃあできることではありません。そう、並の人間なら」
並の人間なら、という言葉をテリアは強調する。
「まあ、仮に殺して中身を取り出す所まで出来たとして、敷地内を出るとモニジンに見つかりますし、逆にこの家に戻ってもモニジンに引っかかっ出しまう。」
もったいぶった言い方に苛立ちを覚えたのか野次を飛ばす人も出てきた。
「じゃあどうするかって?方法は簡単ですよ。つまりはアラスタル邸の中で殺せばいいのです」
するとテリアはポケットの中を弄って取り出したものをみんなに見せるようにして振り上げた手には姉さんの死体の周りにあった血が付着した糸だった。
「これを見てください。これは姉の死体の周りにあった糸です。そして、この糸を伝っていくとアラスタル邸の方へと繋がっているではありませんか。さらに伝っていくとアラスタル邸の二階へと辿り着くわけですが」
アリスさんが死ぬ前の糸冬邸の二階。
俺とイルさん達が話していた場所。
───まさか。
「イル・ミーシアさん?でしたっけ?が、力の運動を操れるらしいじゃあないですか。つまり、予め姉さんの腹にワイヤーを括りつけて力をコントロールして上半身と下半身を分裂させたのでは無いでしょうか」
細い方が力をコントロールしやすい、と彼女は言っていた。けどまて。それじゃあ。
「イルっちは私達と一緒にいたよっ!」「イルさんは私達といました」「イルは私達と一緒にいたんだけど」
メイ、クロネ、イリアスがイルさんを庇う。
「テリアの言い分はわかった、けどそれじゃあどうやって体の中身を取り出すんだよ。触手みたいに自由自在に動かすのか?」
「お前は《操魔力体》をどのようなものかわかっちゃいない!!どれだけ強力だと思ってるんだ!?《操魔力体》なんていう力学を操れるってもうそれはもはや───」
「落ち着けよ、まあお前の気持ちはわかる。妹が殺されて正気の沙汰じゃないのは普通のことだ。だけどそれを濡れ衣を着せる形で治めるのは良くない」
再び沈黙。
「でも、その理論は別に通っていますよ。ダメオさん」
そう肯定したのはエリア・アラスタルさんの妻であるエルザ・アラスタルさんだった。だが、それを認める訳にはいかないとミーシア家の両親が否定に出る。
「ちょっとまってくださいなエルザさん、この人の言った通り濡れ衣です」
「第一、決定的な証拠がない」
「ではこうしましょう、私の自室はイーティアという網膜を認証して扉が開くようになっている魔道具があります。そこで私とイルさんの二人で入って仮に私が殺されたら犯人は確実にイルさんと確定します。なので、イルさんは私に手出しは出来ないでしょう。その間に真犯人でも見つけてはいかがですか?」
その提案にミーシア家はあっさりと了承した。何故ならその提案は「一番大切な我が子をこの屋敷で一番安全な場所における」というものでもあったからだ。
「では行きましょうか」
そう言ってエルザさんとイルさんが三階にあるエルザさんの自室へと向かっていく。
俺は、イルさんを、見た。
悲しそうな表情を浮かべて、俺の視線に気づくとその感情を殺し、悟られないように悲しげに笑う彼女。
そんな顔されたら。
そんな顔、されたら───
───あいつを、思い出しちゃうじゃないか。
「イルさん!俺が必ず真犯人を見つけるから!こじつけで継ぎ接ぎだらけの矛盾している論理じゃなく!俺が絶対にこの殺人事件の解をだすから!」
俺は高らかに宣言した。
アリスタル家に、
ミーシア家に、
その時のイルさんの笑顔を僕は一生忘れないだろう。
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