3-3:モブおじはやり直しを求めます!

 イリアスに案内してもらいながら、現状のことを説明してもらった。

 なぜこんな豪華な屋敷に泊まってるかと言うと、大都市アリステルは王が殺され、その犯人が俺ということになっているらしい。そして王が死んだ中、混乱に陥っているアリステルを何とかして統率しているのが女王プリンだ。

 その間、指名手配犯と言っても過言でない俺と共犯者となっているメイとクロネはアリステルの隣国、中立国セリメントルの貴族の屋敷で匿われていた。

「ここの防犯対策はバッツグーンなんだよっ!モニジンっていう見たものを記録できる花があるんだ!」

「記録してどうするんだ?」

「ななななんと!そのモニジンの花弁を取って魔力を一定量注ぐとその記録を見ることができるのです!」

 えっへん、とイリアスは無い胸を張って威張っている。

 要は監視カメラだな。

「屋敷の周りと、屋敷の塀の内側と外側に植えられてるから誰が来ても1発でわかるんだよ!」

「泥棒とかそのモニジンっていう花を刈ったりするんじゃない?」

「モリジンは死んでも花弁を取って魔力を注げば記録は見えるから。あと、優秀なメイドさんもいるし!」

 メイド!!!

 テンション爆上がりだ。

 双子の片目姉妹メイドとか、メイドのドラゴンとか・・・夢が広がる!

 なんてことを考えていると、突然イリアスが止まり、「ここです!」と知らせてくれる。この部屋の中にメイとクロネがいるのか。

 なんて、言えばいいんだろう。

 俺は味方を見捨てて、自分が助かるためにプリンを探した事実は覆しょうがない事実だ───それを、無かったことになんて出来ない。

 結局仲間なんてどうでも良くて。

 自分さえ良ければいい。

 そんな行動をしておきながら半年間待たせているような人間がひょっこりと出てきていつものテンションじゃあ怒るだろうし。

 謝罪だろうか。

 でも、謝罪しても簡単に許されることではない。だってそうだ───俺はみんなの信頼を裏切ったんだから。

 友情を、裏切ったんだから。

 なんて、言えばいいんだろう。

「んっ?入らないの?ダメっちー」

「いや───入るよ」

 なんて言えばいいかなんてわからない。

 けれど。

 けれど、謝罪でもなんでもしてやり直そう。

 俺みたいなモブおじを好いてくれる人なんてこの世界にいないんだから。

 やり直すんだ、壊れたものは修理する。至極当たり前なことだろう?

 俺は、ドアノブを捻って、部屋の扉をくぐる。

 モブおじは───やり直す。

 まずはここから始、めよ、う?

「───あ」

「・・・・・・!?」

「・・・・・・・・・」

 決心を胸に扉をくぐるとそこには確かにメイとクロネがいた。

 下着姿の。

 クロネは名前に似合わず、白い布で出来ている下着を着用していて、黙りながらも頬を朱色に染めて確かな恥じらいを見せている。

 メイはいつも強めの口調だが、ピンク色の可愛い下着を着けていて、それを恥ずかしがっているのがもう・・・なんていうか───!


 ばちん!!!


 刹那、視界が反転して部屋を叩き出される。

 決心を固めてやり直すいいシーンだったのに!!!

 1からいいえ0から的な。

 俺はどこまで行ってもモブおじらしい・・・。

 余計に開口一番なんて言えばいいかわからなくなったじゃないか!!!

 どんな顔して合えばいいんだよ・・・。

「いやぁん!ダメっちのえっちぃーー!」

「楽しそうだな」

「私のも見る?!」

「・・・・・・・・・」

「冗談に決まってるじゃん何真剣な眼差し向けてんの?」

 うわあ。本気で引かれた・・・。

 さっきのテンションからは想像できない程の低い声・・・モブおじショック。

 そこでがちゃり、と扉が開く。

 メイとクロネだ。今度は服を着ている。

 なんていうか───気まずい・・・。

「えっと、ごめんなさい・・・」

「うん、」

「ダメ兄ならまあ・・・」

 気まずいよう!

 相手からしたら半年間あってなかった相手が突然起きてきて、なおかつ下着姿を見られたんだからなあ。

「俺の言ったごめんは、その、いろいろなことに対して。まあ、いまさっきのこともあるけど俺はどうしようもない奴だし、色々な欠陥がある人間だ。ゴメンで許してもらうなんて虫が良すぎるくらいのことをしてきたような人間だ。だから態度で示させて欲しい」

 欠陥製品。

 どうしようもない奴で。

 どうしようもなく壊れてて。

 どうしようもない程に劣っている。

 だから。

「態度で示させて欲しいっていうのも嘘だな、うん。だから、俺はただ───俺と一緒にいて欲しい。ただそれだけなんだ。」

 壊れているから───支えが必要。

 ただそれだけ。

「何言ってんですか、ダメ兄。ヘンなものでも食べました?」

「ダメオ、私たちは仲間だろ?謝る必要なんてない」

 ───仲間。

「そうか、仲間か・・・」

 嬉しかった、単純に。

 俺なんかを仲間だと思ってくれていることが。

 ただ普通に嬉しかった。

 生きてて一番、嬉しかった。

「えーっとう、当主様が会いたいと申してるんですけどもっ」

 こんな空気に水を差すようで若干の気まずさがあるのかイリアスはこれでもかと言うほどの丁寧語で申し訳なさそうに伝えてきた。

 「わかった」と了承してイリアスの後に続く。

 俺はここからやり直す。という決心を胸に俺は、いや、俺たちは歩き出した。


 ドンガラガッシャーン!!!


 何かが俺にものすごい勢いとものすごい音でぶつかってきて、俺は転倒した。

「いてて・・・あ!すいません!すいません、すいません。すいません!!!」

 俺の腹の上ですごい謝られている。

 思わず目を開けた。

 水色のポニーテールを揺らして誤っている女の子、いや女の子と言っても普通の女の子とは決定的に違うと言えるだろう。服装が。

 服装が、メイド服だった。

 メイド、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

 しかもドジっ子ときた。

 わかってるぜ!

 ・・・?

 なんだこの視線は。

 死線、と言ってもいいだろう。

 メイとクロネがものすごく俺を睨んでいる。

 それはさっきまで謝罪していて許した途端、美少女ポニテドジっ子メイドに騎乗されて喜んでいるモブおじを蔑んでいる目だった。

 はあ。

 俺のやり直しは相当難易度が高いらしい。

 まあ、なんせモブおじなんで。

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