3-2:転生したらモブおじだった件
起きてすぐに自分の体を確認する。ぶよぶよと太っていて、濃い体毛。全体的にだらしない印象。
「異世界か」
また転生したらしい。いや、この場合姉さんによって意識を異世界に飛ばされたということなので転生とは違うか。
にしても辻褄があわない、というのが起きてすぐに思ったことだ。
「俺は龍人石とやらでこの体の持ち主と体を入れ替わっていたとメイが言ってたんだが・・・」
姉さんの言い様と、またもこの世界に来ているという事実を考えると姉さんが意図的に異世界に飛ばせる何らかの秘密を握っているのではないかと考えるのが妥当か───と、まとめたところで結局解決にはいたらないか。
ところでここはどこだ?
辺りを見回すが、知っている場所ではない。全体的に材料が木でできているところは変わらないが、木に何らかのコーティングがされていたり、高級感を漂わせる部屋。
プリン、メイ、クロネ、レットはどこだろうかと真鍮製のドアノブを捻り、部屋の外へ出る。
そこで───どすん。と背中に衝撃が走る。
いた、くない?
驚きとともに後ろを振り返ると100センチくらいの女の子がむう。と、頬を膨らませていた。
「ご、ごめんね?痛かった?」
心配してそういうと眉間に皺がもっとよってくる。
「子供扱いしないでください!!」
その常套句を言ってる時点で十分子供だと思うんだが。
「でも、子供みたいにテンション上がって走り回っていたからぶつかったんじゃないの?」
そ、それは。と少女の顔がみるみる赤くなっていく。怒り半分、子供っぽいところが露見した照れ半分と言ったところだろうか。
くっ、やっぱり内なるロリコン精神が飛び出しそうだ・・・。
「私はメル・ミーシアといーます!あなたはだれですか!」
照れ隠しなのか幼女は突然自己紹介をし始めた。
自分から名乗るとは礼儀正しい。などと感心している場合ではない。俺はこの高級そうな屋敷においてどのような立ち位置かも分からないし、不法侵入者と言われても否定できないような身なりをしているので思わず口ごもり、結果的に「使用人です」と嘘をついてしまった。
が、ふうん。としか言われずに済んだので良かったと心から安堵する。幼女の純粋無垢な心に付け入ってしまった罪悪感がある。
くりくりしている目。まだ育ちきっていない丸めな顔。森ガールワンピースのロリータファッション。
危ない危ない。ロリコンに目覚める所だった。
まだ先程のことを怒っているのか、ぷんすこ。という擬音が正しいくらいに頬を膨らませて怒っていた。
だが、そんな彼女がみるみる血の気が引いていく。最終的には怒っていた対象である俺のの足にしがみつくほど、恐怖の色で顔を染め上げていた。
どん。どん。どん。と、足音がすると俺も青ざめる。
こんな容姿をしている人間が幼女と接触していて、オマケに身元不明ときた。ポリスメンにお世話になる準備をしなくてはならないなんて考えていると、2人の風格のある年配の男女が上がってきた。
老人、と言っても皺などがあるが、顔立ちがキリッとしていて気品がある。女性は花柄のレースとボレロのワンピースを身にまとっていて、男性はタキシードでビシッと決めている。
目がバッチリとあってしまう。
あたふたと焦っていると女性がこっちへ向かってきた。
「すいません!うちの出来損ないがご無礼を働いて。私は、メル・ミーシアの母親。エレザ・ミーシアと申します。」
「本当、すいませんねえ。なんせちょっとこの子出来が悪いもんで。あ、私は父のキラ・ミーシアです。」
2人の両親は頭を下げてきたが、俺は「大丈夫です」とそれなりの返事をして、メルという少女をみた。
目はまるで仄暗い水の底のようで、さっきまでの破天荒さは微塵たりともなかった。
───零だった。
俺はその少女に同情したり、哀れんだりしなかった。
似ているな。と、まるでかつての俺を鏡写しで見ているかのような錯覚に陥るほどに俺と彼女は似ているとただただ感じていた。
「出来損ないなんかじゃないですよ、逆に、なんでも出来ると思います。才能とか、客観的意見とか、そんなものを全て無視できるんですから」
多分、それは俺がずっと両親に言いたかったことなのだろうと言ってから気づいた。「才能なんて欲しくない」と、いつも親の意見に従わされてきた身分から、本音を1回でも突きつけてみたかったという後悔のようなものだ。
「ふうん。あなた、名前は?」
母親は下卑た目をして尋ねてきた。
間違えて「ダ・・・」と、ダメオの途中まででかかったあたりで気づいた。なんせ喋りすぎたのだ。
「い、いやあ、使用人なので名乗るほどのものでも無いですよー。僕はバイトみたいな感じで、やっぱり結婚式となると使用人の数が足らなくなるみたいで、あははー」
いかにもわざとらしい苦笑をしつつ、答えるとメルの父親の方が「・・・ばいと?、まあいい。使用人なのだったらあっちで働いてきなさい」と、ごもっとものお叱りを受けたので、三人の横を通る。
あっぶねーー!!
バレるかと思った・・・
「お!起きたのダメっち!おっはようっーーー!」
「ぐぇ」
またもや突進された。最近寝起きの男に突進するのが巷で流行っているのだろうか。
ピンク色の髪、ピンク色の目。
忘れようのない。
───いーたんだった。
「そんなビクビクしないでぇっ!半殺しにしたのは謝るからぁん!それもこれもダメっちにちょおっーーーーーーっと手伝って欲しかっただけなんだからねっ!」
なんか語尾をツンデレちっくにされた。
いや・・・可愛いんだけどさ・・・
「気絶させるとかでよくなかった?それじゃあ」
「絶命させてないんだからいいでしょ」
まあ傷も完治してるみたいだしいいけど───それにしても軽いなあ。1度殺されかけたことをもう許してしまいそうな程に気さくな人だ。
「それよりいーたん、プリン達は?」
「プリンたんは王様を私が殺しちゃったから女王になってる。レットんは故郷に帰って、メイメイとクロちゃんはこの屋敷にいるよ」
呼び方が特徴的だな。レットんって豚とかけてるのか?───ってそれよりプリンが女王!?レットも故郷に帰ってるし。
「いーたん、俺何日間寝てた?」
「ん?半年」
───は?
「いーたん?今なんて?」
「だから半年」
半年。
もしかすると俺の意識があっちの世界に飛ばされていた時間とこっちの世界の時間では時差があるのではないだろうか。あんな少しの間別の世界に行っただけで半年って・・・。
まるで浦島太郎だ。
「あと、いーたんって名前偽名なんだよね。暗殺者時代の名前を文字った。えっと、なんちゃらイートってやつ」
暗殺者で思い出すのは王直属の暗殺部隊。
《死喰い》デッドイート。
こいつだったのか───!
「じゃあなんて呼べば?」
「ん?そーだねぇー。暗殺者って基本的に名前ってないんだよ。ほら、名前を知った時点で相手が死んでるからさ。まあ、昔呼ばれてたイリアスって名前で呼んでよ」
「分かった」と、了承して、思い出す。
クロネが最初に自己紹介した時の偽名───黒ねずみ、という名を。
《闇喰い》シャドーマウス。
シャドーは黒でマウスは口という意味なのだろうがねずみの方で捉えてしまってあの偽名になったわけか。だとすると───
───クロネには名前がなかったのか。
俺がつけたクロネという名は仮のものだったはずだが、本名になってしまっていたらしい。
「とりあえず、メイとクロネにあわせて欲しい」
どう顔向けすればいいかわからない。
わからないけれど会わないことには始まらないと思い、俺はイリアスに案内を促した。
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