2-3:モブおじとイケおじ。

「やらずに後悔するよりやって後悔した方がいいと言うけれど、じゃあやって後悔しない方とやらずに後悔しない方だったらどっちがいいと思う?」

「そりゃあ、やって後悔しない方だろ」

「私はどっちも同じだと思うよ。だって結局どちらも後悔しないんでしょ?だったらやらずに後悔しない方が面倒くさくなくていいし、何かをするとやって後悔する確率が上がるじゃん?「あの時やっとけば良かったなー」ってよりも「なんであんなことしたんだ」って言う方が後悔の質的に上じゃない?だから私は何もしないし───何も出来ないんだよ」

 彼女はそう言った。

 そう言って、

 そう言って。

 そう言って?


 ◇


 俺達は《人喰い》カーニバルの後に続いて王城のだだっ広い廊下を歩いていた。向かっているのは勿論、王の居る場所だろう。

「・・・処刑とかされないよな?」

 と、俺はさっきから気になっていた事を口にする。

「んなこたァねェと思うぜ。ただ話をしてェんだとよ、王が不在だっつう嘘の情報まで流しておびき寄せてんだ。お前らをひっ捕らえてねェ時点でその線はうしィな」

 そんなことを話しているうちにやたら金色で豪華に装飾されている大きい扉の前に到着する。この金少しくらい削って持って帰ってもいいかな?

 だが、そんな企みをしようとするも扉が開く。数メートル敷かれた赤いカーペットの先には大きい椅子に座っているガタイがいいイケメン、だがシワなどがあり歳を感じる。あれが世に言うイケおじか。

 こっちはモブおじだぞオラ。

 あれが国王だろう。

 カーペットをカーニバルが進んでいくので俺達もついていく。イケおじ国王の2、3メートル付近でカーニバルが跪く。

 王の御前ってやつか。

 俺達4人も何となく跪いた方がいいんじゃね?と言った具合に跪く。

「顔を上げよ」

 と、イケおじ。

「別に我が娘と逃亡していたことを怒っている訳では無い。むしろ、有難く思っているところだ」

「え?」

「アイツは昔から魔力が弱かったが、おかげで覚醒したらしく今では立派な後継者として相応しいと言っても良いだろう。」

 俺が魔犯牢獄で死にかけてプリンが助けてくれた時に王の血か何かが覚醒していたということだろう。

「だからお主らを恨んでなどいない、犯してきた罪も帳消ししてやる。だから───これ以上関わるな、娘には娘のやるべきことがある」

 王の言っていることは───正しい。

 プリンにはやるべきことがあって。

 それは俺達が介入するべきことではない。

 そこで、メイが震える。恐れから、というより怒りからだろう。拳を握りしめている。

「お嬢様を監禁しておいて何父親らしいこと言ってんだ」静かに、メイがそう言った。「娯楽も何も無い、ただ辛い日々の繰り返しをこんな鳥籠の中で過ごさせてきて、お前の所有物じゃない!!!」

 その発言に王は。

 はは、と鼻で笑った。

「親なのだから別に言っていいだろう?親らしいことを」

 その王の発言に次はレットが言い返す。

「血の繋がりがなかったらそこを愛で繋ぐのが家族じゃねぇのかよ、王様の前に親が務まってねぇっつってんだ」

 ははは、と王は笑う。

 気味が悪い。

「血は繋がっているさ」

「妹の子供なんじゃないんですか?」王様だから敬語を使う、というのは俺だけらしい。

「ああ、娘はそう伝えているのか」

 はははは、と王は笑う。

 気持ちが悪い。

「じゃあ、娘さんは俺たちに嘘をついてたってことですか?」

「いいや?嘘はついていないよ」

 ははははは、と王は笑う。

 気分が悪い。


「俺の妹の子で、

 

「───、───ッ!」

「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!!!!」

 王は笑う。

 気色が、悪い。

「王家は純血であるべきだ、ウチはそうしてきたぞ?」


 ───女王の他界

 そして───弟の存在───

「息子の機能がまだ成熟していないがいずれは行為を行い、そうなるだろうな」

 はあ。はあ。はあ。はあ。はあ。はあ。

 息が、苦しい。

 つまりコイツは妹を犯して───

 その事を考えたただけで。

 喰ウ気が悪クナり、

 瞳孔ガ開いテ、

 奥歯が痛クなるホド喰イ縛ル。

 ───どくん。

 と、心臓が脈打つ。

 ───ど、くん。

 心臓が飛び出てしまいそうで反射的に胸を抑えてしまう。鼓動が早い訳ではなく、「重い」。

 どくん。どくん。と心臓の動きが反復するたびに心臓が喉から飛び出しそうで怖かった

 うっ。と吐きたいのを我慢する。胃の中の物を出してしまえばその分心臓が動けるから吐きたいと脳が訴えているのを無視しつつ、1歩ずつ近づいていく。

 ───どく、ん。

 やめろ。それ以上行くな

 体の中の理性おれが叫ぶようにして止めようとする。

 やめろ。やめろ。やめろ。

 やめろ。やめろ。やめろ。

 やめろ。やめろ。やめろ。

 ふるえるように怯えるように拒む。

「う、るサ。い」

 どく。どく。どく。どく。どく。どく。どく。どく。どく。どく。どく。どく。どく。

 鼓動が早くなっていく。心臓が悲鳴を上げて叫びながら止まれと警告音を出しているようだ。

 そう、警告音。さっきから異常なほどにうるさくて痛いほどの心臓は警告していのだ。

 だが僕は歩みを止めない。

 ためだ、ダメだ、駄目だ。

 それを。

 その行為を行ってしまったら───

 あの時と、変わらない。

 理性が体が心が魂が、拒んでいるのにも関わらず、本能は行けとうるさくてたまらない。

 ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。ど。

 心臓がこれでもかと言うほどに早く鼓動している。

 肺動脈やら肺静脈やら体動脈やら体静脈やらがよく心臓に繋がっていられるなと思った。

 ────変わらないね。ずっと、ずっと、ずっと。私は変わっていくのに。変わらないね。変わらないんじゃなくて、変われないんわけではなくて、変わりたくないわけでもなくて、

 変われないんだ。

 だって私が壊したんだもん。そりゃあ変われるわけがないよ。周りの人を人形か何かだとしか思えない欠陥品に壊したんだから。

 だから私を壊したんでしょう?────

 また、壊すのか?

 コイツを。

 この目の前に居る王様を。

 アイツのように、

 彼女のように。

「───、───決闘しろ」

 俺は、抑えた。

「あ?」

「勝った方のものだ、それでいいだろう?もしかしてあの王が逃げる訳じゃあないよな?」

「はははは!いいだろう!まあそちらは望み薄だろうがな」

 それだけ言って俺は部屋を去ろうとする。それに3人がついてくる。

 振り向いて。

 王の顔を見て。

 最後に話しかける。

「娘の名前、知ってるか?」

「ははは、知らんわ」

 そう言って王は笑った。

 俺は笑わなかった。

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