1-9:美少女とモブおじ。

 《人喰い》カーニバル。

 《闇喰い》シャドーマウス。

 《呪喰い》カースピエロ。

 《死喰い》デッドイート。

 王直属の暗殺者達の《暗殺名》。これらの4人組は裏で政治を回している存在で、王からの指示があればまるで何かの獣に喰われたかのように姿を消す。

 姿を消す。

 政治からではなく、

 何故この資本主義でしかも、過酷な労働を強いられているようなこの国に暴動が起こらないかというと、この裏世界の住人の存在が圧力となっているからである。その圧力を利用して王は、実質的な絶対王政を確立した。

 

「で、その1人がクロネってこと?」

「そうなるな。私もこんな小さい子だとは思わなかった」

 俺たちはドラゴンから逃げ切り、出口の螺旋階段を登っている最中だった。

 さっきからクロネは眉を八の字にして無言で俯いてしまっている。騙していた罪悪感からなんだろう。

「2日前に戦ってたカーニバルってやつもその1人?」

「ああ、まあアイツは4人の中でも1番弱いけどな」

「え!?あれよりクロネの方が強いの!?」

「単純なパワーだったら1番強い《死喰い》と互角くらいだけど、なんせあの脳筋だとねぇ」

 あー、と納得する。

 ところで。

 全然関係のない話なのだが、螺旋階段を登る列は先頭から、レット、メイ、俺、クロネ、プリン、という順番だ。

 何が困るって俺の正面にメイの形の良いお尻があって目のやり場に相当困るところだ。俺は全体的に大きい、はっきりいってデブなのでメイは2、3段上を歩いてもらわないとぶつかってしまう。その結果、俺の正面にメイのお尻がくる形となるのだ。

 囚人服を着せられているため、体のラインが割とよく見えるのがまた嫌なところだ。

「クロネ、別に俺らは怒ってないから。喋っていいよ」俺は何とかクロネに話題を振ることによって意識をそらす。

「いえ、でも私は親切にしてもらったプリ姉とダメ兄を騙してしまったので。それは償える罪ではありません。」

「あのなあ、お前くらいの年齢の子は誰でも間違いを犯すものなの。俺なんてクロネくらいの年齢の時は「深淵の炎に飲み込まれ爆ぜろ・・・ッ!!」なんてやってたんだから」

「?炎魔法ですか?」

「そっか。こっちの世界では割と当たり前なのか。いやそうじゃなくて!あーもう!」

「結局言いたいことはなんです?」

 言いたいことか。

 ああ、言ってやるさ───!俺がモブおじだからできる最高の答えを。俺がなんでそんな必死にクロネを慰めているのかを。

 殺されかけた相手に何故こんなにも肩入れするのかを。


「クロネみたいな可愛い美少女ロリが大好きなんだよッ!!!」


 静かな螺旋階段にその言葉が呼応していく。

「───だから、そんな顔をして欲しくない」

 これは紛れもない本心だ。

 いや、「本心だ」とかカッコつけてみたけれどロリコン宣言しただけじゃねえか。もっとオブラートに包めただろ、本心を赤裸々に語りすぎだ。

 やってしまった。と、若干の後悔をしながら後ろを振り返り、クロネの方を見ると無表情だった白い肌にほんのりと赤みが指す。

「しょうがないですね、ダメ兄はほんとダメ兄です」

 いつものクロネの声よりもワントーン上がった声。まあ、機嫌を治してもらえて何よりだ。

 仲直りもできた事だし、さっさとこの螺旋階段を登ってしまおう。正面を向き直して俺は前に進んでいく。

「目がいやらしいです、ダメ兄」

 クロネには俺がメイのお尻を見ていたことがバレていた。

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