1-8:モブおじは果たして美味しいのだろうか。

 うーん。という不細工な

「目を覚ましましたか!?」

 誰だ、俺のお決まりの定型文を邪魔するやつは、なんて思い周囲を見渡すとプリン、メイ、オークが倒れている俺を囲うようにして座り込んでいた。

 そして、俺の腹には、すやすや、と寝息を立てている黒髪の美少女がいた。クロネだ。

 俺の腹枕がよっぽど気持ちいのか熟睡状態である。

 うん、可愛い。

 この寝顔を見ていると、殺されそうになったことを忘れてしまいそうになる。

 ん?殺されてしまいそう?

「あ!俺はクロネに殺されそうになったんだっけ」

 それで助からないし身投げしたんだ。

 で。

「なんで俺生きてんの?」

「ダメオが飛んだ後、私らも飛んだんだよ。で、地面に着く直前にプリンの回復魔法を飛び降りた全員にかけてたってワケ」

 つまり、衝撃で肉とか骨が壊れては治り壊れては治りを繰り返して

「でもそれって───まあいいか」と、オークが何か言いかけて口を紡ぐ。

「そういえばお前の名前聞いてなかったな」

「オレか?オレはレット・オークルム。レットでいいよ」

「レット、にしても不思議なんだが、初対面の俺の為によく飛び降りれたな。もしかして俺のこと好きなのか?」

「ぶっ飛ばすぞ!!オレは飛び降りたわけじゃなくコイツに落とされたんだ!!」

 レットはメイを強く指さす。ふうん、と納得してあげた。必死すぎだろ。

 にしても、魔犯牢獄の底にしてはなんか静かだ。

 クロネが起きないように頭だけ起こして周りを見渡す。

 プリンが言っていた死刑囚や、大罪人の気配は全くない。円形でただの意味の無い空間が広がるのみ。

 ただ、1つ。

 特別大きな鉄格子がある。縦8メートル、横7メートルくらいだろうか。やがてその鉄格子はひとりでにガラガラ、と音をたてながら、上に収納されていく。

 道が開けたのかと思ったがそうじゃない。だってそうだ。人用だったらこんなに大きくする必要は無い。

 どすん、どすん、と大きな振動音が響き渡る。

 ぎらり、と俺たちを見下す有鱗目と鋭い牙はワニを連想させるが、ワニなんて可愛いものだ。背中には大きな翼を持っていて、オマケに足には鋭い鉤爪。

 ───ドラゴンだ。

「グワアアアアァァァァアアッ!!!!!!」という咆哮が俺たちの耳を劈く。

 急いで俺は飛び起きた。けれど、それではクロネが放置されてしまうと思い、お姫様抱っこして持ち上げた。

 起こすという手も考えたが、それでは俺たちがまた殺されかねない。ドラゴンの相手をしなければいけないため、これ以上敵を増やすことは避けたいと考えたからだ。

 グワアアアア、と再度ドラゴンが咆哮する。

 さて、どうしたものか。

 俺の魔法は戦闘向きでは全くない。これまでの隠密行動においては多少輝いていたが、これからの戦闘では全く使えない。俺にできるのはクロネを連れて逃げ回ることだろう。

 プリンも戦闘向きではない。となると、メイ、レットが戦闘を引き受けてくれると思うのだが、2人だけでドラゴン討伐なんていくらなんでも無茶すぎる。

 逃げるしかない。

「メイとレットはできるだけダメージを与えつつ、引き付けて置いてくれ。俺とプリンは逃げ道を探す」

 全員が頷く。

 2人は怖がる素振りなんて全く見せずにドラゴンに向かっていく。

 初めの攻撃はメイの光魔法だった。光の槍を2本作り、ドラゴン目掛けて飛ばす。命中はしたものの、貫きはせず、少し刺さった程度だ。

 皮が鎧のように分厚い。

 次は、レットが風を発生させる。レットの適正魔法は風魔法らしい。

 その風が刃のようにドラゴンを切りつける。

 だがその攻撃も皮を少し傷つける程度で終わってしまう。

「逃げ道があるはずなんだけどな」

「ドラゴンさんが出てきた所はどうでしょう」

 プリンの提案に確かに、と納得する。そこ以外出入口がない。

 でも───

 ドラゴンが出てきたところの真ん前で戦っているのだ。

「仕方ない。プリン、ちょっと持っててくれるか」クロネをプリンに手渡す。「ダメオさん、なにを」

 俺はドラゴンに向かって走り出した。

「はっはっはっはっ」息が切れそうだ。

 ドラゴンまでは6メートルほど。

「レット!!ドラゴンを宙に浮かすことは出来るか!?」

「わかんねぇけどやってやらぁ!!」

 5メートル、4メートル、3メートル。

 対象が人じゃなくても効くのだとしたら。

 2メートルに差し掛かったところで。

「今だ!レット!!」

「───飛べフライングッ!!!───」

「───催眠ヒプノーシスッ!!!───」

 レットの風魔法と催眠魔法が同時に繰り出される。ドラゴンはメイとレットと対峙して視線を集中させていたから催眠が効くはずだ。

 風魔法でドラゴンが浮かび上がる。そこにスライディングして俺はドラゴンの下を通り抜けた。

 ドラゴンが出てきた場所には人が通るような場所がプリンの予想通り奥にちゃんとあった。

 問題は3人がどうやってこちら側に来るのかだ。

 俺のような手段は取れないだろうし。

「出口はここだ!!!!2人はここからドラゴンをどかすようにして引き付けてくれ!!!」

 そう声を上げると2人が引き付けてくれたのか、ドラゴンが移動していく。

「私が合図したら目を瞑ってくれ!!」

 ドラゴンが足の爪を使って攻撃してくる。だが、それを剣で上手くいなす。

 そのいなした手にレットが斬撃を繰り出す。手の甲は皮が薄いのかドラゴンの手に切込みが入る。

 ぎろり、と2人を睨んだ瞬間───

「目を瞑れ!!!───ライト───」

 メイの突き出した手から光が発生する。

 グワアアア、とドラゴンは目を瞑りながら苦しそうに鳴いている。閃光弾、のような役割の魔法だろう。

「逃げるぞ!!!」

 こちらに2人が向かってくる。それと同時にプリンも向かってくる。このペースだったらドラゴンからは確実に逃げられるだろう。

 そんな時だった。

 プリンが転んでしまったのは。

 転んだ時の咄嗟の判断でぐるり、と体をねじってクロネにダメージがいかないようにした。けれど、そのせいで打ってしまったのは脊椎だ。数秒痛みに苦しみつつ、プリンは立つ。

 その数秒が命取りだった。

 ドラゴンはメイの目眩しから回復し、プリンの方へと向かう。

 そして、ドラゴンはぐわっと大きな口を開ける。

 にやり、とドラゴンが笑った気がした。

「───やめろッ!!!!!!」

 刹那。

 ドラゴンの舌がぱっくりと切断されて、血が吹き出す。流石のドラゴンでも、舌を切られた激痛に身悶えして、プリンを攻撃出来なかった。

 クロネだ────

「まったく、外部からの攻撃が通用しないんだったら内部から仕掛けるのが普通だと思いますけど。」

 クロネは無表情にそう言った。

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