1-7:モブおじは殺される。
「プリン!それにダメオも!」
オークの後に続くとメイはすぐに見つかった。幸い、目立った怪我などはなく、元気だったので安心した。
クロネの持っているアンチロックナイフで牢屋を開けて、メイを解放する。
「それでは、帰りましょうか。急がないと見つかってしまう可能性もありますので」
喜びに浸りたい気持ちを抑え、クロネの意見に賛同する。
クロネは今回すごい活躍をした。見張りを気絶させ、変装できるようにし、アンチロックナイフという音を立てずに牢屋の鍵を開けることが出来る優れものを持っていたりと一番の活躍を見せてくれた人物だ。
おかげで俺達の目的は達成された。
───ここで、引っかかる。
クロネの目的は?
クロネ目的は、なんだ?
俺とプリンはメイを助けるため、このオークは牢屋から出られるため協力をしているが、クロネの目的だけは検討がつかない。
というか、あれほどの戦闘スキルを持っているのだから、わざわざ道端で道行く人に声をかける必要はない。
一人でも侵入できるだろう。
しかも、何事も順調すぎる。
まるで。
まるで───俺たちにメイを救出させたいような意思がある気がする。
「クロネの用事はいいのか?」声色を変えずにクロネに尋ねる。「魔犯牢獄に用事があるから道で勧誘してたんだろ?」
「そうですね」クロネも声色を変えずに言ってくる。
けれど、何となく不安な空気がたちこめる。この空気を、俺は知っている。
あいつが、
俺を殺したあいつが出していたような雰囲気。
殺される、と思った。
クロネはワンピースの胸元からナイフを出す。それはさっきのアンチロックナイフではない。人を殺す為の刃渡り5センチ程のナイフ。
にやり、とクロネが笑った気がした。
ひゅん、と───クロネがナイフで斬撃を繰り出した。
だが、その斬撃は空を斬る結果となる。なぜなら俺の『透明化』で目視できないようにしたからだ。忘れてはいけないのが俺の『透明化』は目を凝らしたら見える程度のもの。『透明化』を使ったと理解したクロネは次の斬撃に移る。
さっきまでの可愛い顔ではなく、瞳孔が開かれ人を殺す時の目。
戦慄する。
「
メイの光魔法で作られる光の盾で攻撃を防ぐ。メイの盾は壊れることも、ヒビすらも入らない。
いや、ちがう。
攻撃をそもそもしていないのだ。
「おにぃちゃん」
甘い声が耳の中に呼応する。そして小さい手が蛇のように後ろから抱きしめるようにして回される。
抱き絞められる。
まるで闇の中から出てきたように俺の背後に回ったクロネの手には尖ったナイフが握られていて、そのナイフの矛先は俺の喉元に向かっている。まるで、捕食する時の牙のように。
クロネの口の中にいるような気分だ。
くらり、と目眩がする。また死ぬ事への恐れを脳が緩和しようとしているのだろう。
あれ、時間が止まったのか。いや違う。これは俺の脳が死にたくないと叫び、頭の回転数が上がっただけだ。
俺はこの異世界に別れを告げよう。頭が回るうちに。
俺は少なくとも、この世界を気に入り始めていた。まあ、モブおじという点を除けばだが。なんで気に入り始めていたんだろう?
ああ、そっか。自由だったからだ。
前世は色んな期待に押し殺されそうで全くの自由を選べなかった。だから人生を自由に生きているアニメキャラとかに憧れを抱いていたんだ。
───自由、か。
鳥のように。
飛びたかったのかもしれない。
「─────はは」
笑って俺は飛んだ───
後ろから抱きついたクロネをそのままおんぶするような形で木でできている足場から穴に向かって身を投げる。
そう、自由。
自由落下。
あとは体を重力に任せるのみ。
「一緒に死のう、クロネ」
「─────」
相変わらず無表情。けれど、人生最後が美少女を見ながらというのは前世からの進歩ではないだろうか。
前世は不細工なクラスメイトだったし。
それだったらいくらかマシか、なんて笑う。
来世はイケメンにしてくれよ、なんて神様に嘆息す────
ぐしゃり。と、卵が割れるような。そんな音がした。
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