1-6:豚には真珠ではなくモブおじが似合う。
結論から言うと簡単に魔犯牢獄への侵入は成功した。普犯牢獄の見張りは適当に仕事をこなしているだけの人が多かったので俺の『催眠』でどうにか出来た。魔犯牢獄への入口でも俺の『透明化』で切り抜けることが出来たのだが、ここから先は無茶だ。
魔犯牢獄はどんなところかというと、牢獄、というより穴だ。半径200メートルくらいの大きな穴の壁を掘り、その掘って出来た部屋を牢屋としている。牢屋の前に木の床と柵を設置して、それを何層も重ねていったものが魔犯牢獄。
なぜそんな造りとなっているのかプリンに聞くと、牢屋の数が確保でき、脆い足場にすることによって大きな攻撃魔法をすると自分が穴に落ちてしまうという知恵を絞られた造りなんだそう。
穴の下を覗き込むと底は全く見えない暗闇となっている。
この穴の底には大罪人や死刑囚などが監禁されているらしい。酸素濃度はどうなっているのだろう、人が住めるようなところではないと思うが。でも、そこら辺は魔法でどうにかできるんだっけ。
「とりあえず変装とか出来ないかな。さすがに俺の『催眠』と『透明化』でこの人数は乗り切れない」
普犯牢獄とは全く別物のように感じさせられるような見張りの数。だが、丁度よくサボっている2人組を俺たちは発見した。
「ダメ兄、『透明化』ってあと何回使えます?」
「すまん、あと1回が限界だ」
「それでいいです、私にかけてください」
私にかけてくださいとか言わないの、なんて冗談を言える雰囲気ではないほどに真剣な眼差しをクロネは向けてくる。
それに応えるように俺はクロネに向けて大きく、太い手をかざす
「───
詠唱をすると、クロネは足からどんどん薄くなっていく。やがて頭まで到達すると警備員2人の方へと向かっていく。
初めにしかけたのはクロネだった。
1人目にみねうちを決める。だが、そこで俺の『透明化』は解除されてしまい、2人目に気づかれてしまう。見張りは「なんだお前ッ!」という声とともに槍の攻撃動作へと移る。
1回目の攻撃は槍の基本動作、突き。クロネはその攻撃を右に重心を移動させて躱す。2回目の攻撃は突いた槍を横に薙ぎ払う攻撃方法だったが、それもクロネはジャンプして躱す。
ジャンプして躱したと同時に、その薙ぎ払っている槍を踏み台にしてまたもジャンプ。見張りのこめかみに膝蹴りを決め、ごん、という鈍い音がする。
10秒もかかったか怪しい素早い動作だった。
俺はその2人の来ていた防具一式を脱がして、その防具達を着ようとしたが、
「サイズがあわねえ・・・」
俺のサイズが大きすぎて着れたもんじゃない。結果的にプリンとクロネが服の上からその防具を着て、俺を牢屋に入れるという図となった。
クロネの場合、俺とは逆に小さすぎるのではと思ったが、男の1人が小柄な150センチ後半だったので運良く着ることが出来た。
だけれども。
うーん。
変装は上手くいって、魔犯牢獄の奥に進むことが出来た。なぜそんな簡単に進むことができたかと言うと、2人の変装のおかげもあるが、やっぱりいちばん大きいのは───俺の見た目だ。
こんな性犯罪を生業としていますというような見た目に見張り達はプリンとクロネに「お疲れ様です」と声をかけるほど俺の見た目は悪い方に完璧だった。
まあ、今回は俺の見た目の悪さがいい方に働いたから良かったけど。
やっぱり前世のこともあってか得心いかない。
「どうしたんです?ダメオさん」
「いや!なんでもない。それより、闇雲に探してもメイはみつからなそうだぞ」
「ううん、でしたら囚人さんに聞いてみるのはどうでしょう」
囚人がタダで教えてくれるとは思えない。プリンのこういう少し天然な所は癒されるが、今はそれどころでは無い。
いや、待て。
例えば「囚人にここから出してやるからメイの居場所を」とかそんな感じで聞けばメイの居場所に案内してもらえるのではないだろうか。
「プリ姉、囚人は囚人の居場所を把握していないので無理だと思います」
「あ!確かにそうですね」
クロネが無表情で冷静に突っ込む。
確かにこんな造りでは囚人が他の囚人の居場所なんて把握しているわけが無い。
そう嘆息していると、ふがふが、と謎の音が背後から聞こえる。
なんだ?豚かなにかか?と、思いながら振り返るとその牢屋の中には確かに豚がいた。けれど、普通の豚ではない。二足歩行していて、5本指がある、人型の豚だ。
「そこの3人、秘密の会話が丸聞こえなんですけど?」
「プリ姉とダメ兄は下がってください。オークです」
「おいおい嬢ちゃんそりゃねぇぜ。こんな鉄格子で囚われてる俺がどうやってお前らを攻撃しろってんだ?俺は単純に提案をしたいだけだよ。」
「クロネ、敵意は無いっぽいし大丈夫だよ」
クロネは警戒態勢を解く。クロネがオーク、とか言ってたか。見た目と名前からして、ゲームとかでよく見かける豚の魔物と同じ認識でいいだろう。
「まあ聞けって。オレは見ての通りオーク族だ、鼻はお前ら人間よりも遥かに優れてるぜ?そのお前らが探してるメイってやつを俺なら容易に見つけられるんだが、しっかしまあ状態がこんなザマじゃあ見つけられるもんも見つけられねぇなー」
「はいはい、わかった。出してやるから協力しろ。ちなみに裏切ったらトンカツにでもして食ってやるからな」
わかってるって。ところでとんかつってなんだ?、と笑いながらオークは牢屋の扉の前に立つ。すると、クロネがナイフを取り出して近寄っていく
「待てクロ───」
?と、クロネは頭に疑問符を浮かべながらナイフを刺す。そしてがちゃがちゃと回した。
鍵穴に。
すると、がちゃん、と音がして扉が開いた。
「驚かせてすいません。これはアンチロックナイフというピッキング用のナイフです」
本当にびっくりした。
冗談でトンカツとか言ったが、本当にこいつを豚肉にしてしまいそうで怖かった。
「その、メイとかいったっけ?探してる子は。その子の匂いがついてるものってない?」
なにかあったかな、と思い出す。確か俺に少しの賃金を分けてくれた時の袋はメイの匂いがついていたはずだ。
俺はその袋を差し出すとオークは受け取り、すんすん、くんかくんか、と嗅ぎ出した。
美少女の持っていたものを嗅いでいる情景って傍から見るとこんなに気持ち悪いんだなあ。今後は控えよう。
勘違いしないで欲しいが、プリンや、クロネが近くによってきた時になんかいい匂いがするぞくんか、なんて事は決してやっていない。
オークはメイを見つけるという目的のために匂いを嗅いでいるが、俺がそんなことをしたらただの変態じゃないか。
「だいたいわかった。こっちだ、ついてこい」
俺たちは囚人オークの後ろに並ぶ形となる。
というわけではなく、オークも「今捕まった」というフリをしないと見張りの目は誤魔化せないため、ロープで手首を巻かれ、連行される。
張り切っていたのもつかの間だな、と鼻で笑っていると俺の手首にロープが巻かれる。
そうだ俺もだったわ。
なんだかこのオークに仲間意識が芽生えてきたぞ。
見た目とか待遇が同じなんだもん。
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