1-3:魚の目に水、モブおじの目の前に美少女。

 大都市アリステル。人口約6000万人の巨大都市では働くことが義務ずけられている要は資本主義国家だ。それも、魔王軍の進行で財政が傾いてしまっていて肉体労働をより必要とされる時代。

 そんな中でぶよぶよと太った俺みたいなやつは差別と侮蔑を孕むらしい。

 いや、孕むって比喩だからね?モブおじだからって勘違いしないで欲しい。

 閑話休題。

 俺は呪われているらしい。いや、正確には「元々の体の所有者」なのだが。俺への呪いはどんなものかを簡単に説明すると「モブおじになる呪い」だ。といっても、本当にモブおじになる呪いなわけではなく、太る呪いとか、毛が濃くなる呪いとか色々な呪いが重なって結果的にモブおじになってしまったといワケだ。運動しても痩せることはできず、毛をそってもすぐ生えてくる治りようのない呪い。

 なんだ、それだけか。と思う人もいるだろうが、この国の方針と照らし合わせるとかなりきついものだ。一生差別されながら生きていくなんていうのはかなり精神的にくるだろう。

 そこでこの2人組と、龍人石という貴重なんてレベルの話ではない代物で魔王軍打破のための秘密兵器を密かに開発していたらしいんだが、その「元々の体の所有者」が個人的な理由でその龍人石を使った。

 だが、流石の龍人石でも呪いは解呪不可能らしく、失敗に終わる。

 そこで気づく。解呪しなくても逃げればいいんじゃないか、と。

 この世界にはマナと呼ばれる魔法の元になる元素があり、微量のマナだったら異世界に飛ばせるらしい。代表例として、俺の元いた世界の「人魂」とかがこの世界から送った微量のマナが停滞して、それを見た人が勘違いしたものなんだとか。

 要するに、「元々の体の所有者」は龍人石を使って自分の意識をマナに変換し、俺と意識と入れ替わることに成功したということだ。

 何故俺なのかも分かった。つまり、意識を入れ替えるということは意識が弱いやつが1番やりやすいということなのだろう。俺はクラスメイトのナントカ君に刺されて意識が消えかけていた俺は格好の標的だったのだ。

「ハア、マサカ転生魔法デ使ワレルトハ」

 2人とも嘆息、というか呆れている。何故かその呆れの対象が俺に向けられている気がした。俺じゃないのに。俺じゃないのに!

「まあ、とりあえず自己紹介でもしないか?出来ればそのマスクも外してくれるとありがたい」

 まあいいだろうとフードの中に手を回して2人組の小さい方は鉄の仮面を取る。

「これでいいか?」

 そこには美少女がいた。

 髪は明るめの黄土色に近い茶髪。三つ編みを耳辺りで作って髪留めでその三つ編みをまとめている。美人、というより可愛いといった印象。

 異世界美少女きたーーーーーーーーーーーーー!!!

 いや、やっとですよ!やっと異世界転生っぽくなってきましたよ!モブおじになって魔法も使えないような不遇なスタートだったけどやっとのことでこれぞ異世界転生って感じが出てきたぜ!

 口調的にてっきり男だと思っていたが、その期待はいい意味で裏切られた。なんだろう、この形容しがたい高揚感は。

「あ、俺は池田綿男。よろしく!」俺の自己紹介に戸惑いながらも「メイだ。よろしく」と、返してくれる

 メイちゃんかあ。

 とと、心までモブおじに危うくなってしまうところだった。危ない危ない。

「イケダメンオ?やっぱり異世界の住民ってだけあって名前も特殊だな。勝手に略していいか?」

「どうぞお好きに。」

 俺は池田綿男の苗字と名前の2文字を取ってイケメンとよく略される。この世界でもそうなのだろうか

「ダメオ」

「へ?」

「だから、(いけ)ダメ(ん)オ」

 だめお。

 ダメ男。

「なんだその全くダメな男の略みたいなのは!」

「いーじゃんか。別に」

 冷静に考えてみると今の俺は全くダメな男だ。あながち間違ってはいない、というか、どストライクだ。

 1文無しで職もなし。そしてモブおじ。

 ダメ男じゃねえか。

 「あの・・・」

 そんな会話をメイと交わしていると隣の2人目が初めて声を上げた。

 少し震えながらも鉄でできた仮面を取るメイより背丈が高い2人目。髪は綺麗な輝いているのかと錯覚するほどの長い金髪に目も黄色い水晶のようで、天使か何かを連想させる。

 金髪美女もきたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

「あ、あの・・・プリンです」少し震えた声で挨拶をされる。めっちゃ可愛いやん。

「よろしくお願いします、ダメオさん」

 え。そのあだ名定着すんの?

「よろしくな。ダメオ」

「あーもうわかった!よろしく、メイ、プリン」

 メイとプリンが頷く。

 モブおじと頷いている2人の美少女。こうして、俯瞰して描写すると犯罪臭しかしないのは何故だろうか。

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