1-2:モブおじは捕まります。
がちゃん、と音を牢屋中に響かせながら俺は収監された。
そう、牢屋。
捕まったのだ。この俺が。
放心状態。まさか異世界に来て、しかもこんな体になっているなんて思いもしない。挙句の果てには捕まるなんてもうお腹いっぱいだ。ご馳走様でした。
さっきの3人組の話によると牢屋に入れられたが、2日くらいで出れるらしい。まあ、露出狂なんてそれくらいのものだろう。人を殺しているわけでもあるまい。
2日、か。
にしても暇だ。なにかゲームでもあればいいんだが、なんて思ってしまう。牢屋なんだからあるわけもないのに。
モブおじとか、異世界転生とか、ゲームでもあればいいのにとか、そういうちょっとオタクっぽい思考ができるのは何故かと言うと簡単な話、実は俺がオタクだからだ。
元いた世界ではイケメンでスポーツ万能でお金持ちというハイスペック人間だったらそんなのやる必要ないんじゃないかと思われがちだが、だからこそ。と言っていいだろう。やっぱり自分がハイスペックだと本能的に相手に対してハイスペックを求めてしまう。同性に対しても、もちろん異性に対してもだ。
3次元の人間よりも2次元の女の子の方が基本的に可愛いし、スペック的に高いので、ギャルゲーやらエロゲーなどを好むオタクとなっていった。でもまあ、1番の理由は3次元の女の子に飽きたという理由が1番正解に近いのだろう。
そんな過去の栄光にすがりついたところで結局異世界に来てモブおじになってしまったという事実は揺るがない。
こうして、ハイスペックオタクから低スペックオタクへとジョブチェンジを遂げたのだった。
ばんざーい。どんどんぱふぱふー。
「はあ、異世界転生ね」
ん?まてまて、異世界転生?俺はモブおじだが、この世界は腐っても異世界だ。
だとすると。
だとするとひょっとして!
重い体を起こして手を前に開いて突き出す。目を閉じ、集中力を高める。
かっ。と目を見開いて手に力を込める。
「はッ!!」
しーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
静寂。
「だあっ無理か!くそッ」
まあそうだよな。異世界に来たモブおじが魔法使えてチートでしたーみたいな在り来りなパターンはないよなあ。
「そこ、うるさいぞ!!」さっきの3人組と同じ格好をした鉄鎧の見張りに怒鳴りつけられる。
魔法とかそういう類のものは存在しないのか?ちょうどいい、そこの見張りに聞いてみるとしよう。
「あのーすいません」と声をかけると怪訝そうな顔をしながら「なんだ?」と近寄ってくる
「お兄さん魔法って使える?」
「は?馬鹿にしてるのか?使えるに決まってるだろう」
ほう。魔法という存在はちゃんとあるらしい。あと、結構簡単に使えるんだ。
「どうやるのか見せてよ」
「さっきからなんだ、何が目的だお前。脱獄なんか考えない方がいいぞ。」
とだけ言って見張りは持ち場の位置に戻っていく。
そう上手くはいかないか。と、諦める。
どん、どん、どん、どん、と沢山の振動音が鳴り響く。足音だろうか。
鉄の鎧を纏った男が突き当たりの階段から降りてきて「王女様が行方不明になったッ!!集合しろッ!!!!!」と大きな声で呼びかけると見張り達が一斉に走って向かっていく。
しん。と静まりかえる牢屋内。
これで情報源も失ったか。「必見!女の子の口説き方講座」みたいなのを享受してやって見返りに情報をなんていう作戦を立てていたところなのに。
そんなことを考えていると、かつ、かつ、かつ、かつ、とブーツで牢屋の廊下を走る音がどんどん近づいてくる。音的に2人だ。
さっきの集合に遅れた見張りが焦って移動しているのかと思っている時、
───ぴたり、とその2人組の足音が止まった。
俺の牢屋の前で。
全体的に小さい。いや、175センチからモブおじになって180センチを越えた俺から見れば全体的に小さくも見えるか。そんな性別も分からないフードをかぶった2人が俺の牢屋の前で止まった。
がん、がん、がん!という音を出しながら俺の牢屋のドアを蹴り破る
「早ク来イ、話ハソレカラダ」
2人の中の小さい方が変声機を使っているような男なのか女なのかわからない声で俺の手を引く。
俺はされるがままに2人について行く。さっき見張り達が行った方向とは逆方向に進んでいき、何個かの牢屋を通り過ぎて一段とボロついた牢屋に入る。
その牢屋の中のベッドをどかすと先代の脱獄囚が残していった穴が見える
「──⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎──」
小さい方がよく分からない言語を喋ると光の玉が浮き上がり、その光の玉は俺の前まで来ると弾けて消える。こんなのが魔法か、と拍子抜けしながら穴へと入る。
見える。
明かりなんてどこにもないのに暗い穴の中がよく見える。
「暗視ダ。ホラ、早ク進メ」
言われた通りに穴を進んでいく。にしてもこの穴凄い広い。だって俺のような巨体でも通り抜けられる穴だ、どれだけの年月をかけて掘ったのだろう。
数分その地下通路を進むと光がやっと刺してきた。
久しぶりの日光!
地下通路を抜けた先には陽の光をいっぱいに浴びた草たちが生い茂る草原だった。
そこに聳え立つ一軒の家。その小屋に二人とも進んでいくもんだから俺はついていくしか無かった。
きい、という木製のドア特有の音を奏でながら開く扉の先には外観通りの木でできた椅子とテーブル。そして台所があり、奥にはワインが並べられていて、一軒家、というよりは酒場の方がイメージ的にはあっている。
2人が端っこの席に座るので向き合う形に俺も座る。
「えっと、助けてくれてありがとうございます」
「ハッ、ソンナコトハドウデモイイ。ハヤクヨコセ」
・・・?早くよこせ?なにを?
「トボケルナ、
龍人石?一体全体なんの話しをしているのかさっきから皆目見当もつかない。
「すいません、俺ちょっと前に異世界から来たもので・・・」
2人が仮面の上からでもわかるくらい驚愕しているのが伝わってくる。
ひしひしと、
びしびしと。
「使ッタノカッ!?龍人石ヲッ!!」
なんのことかさっぱり分からない俺とフード姿の2人組。そんな謎の構図で俺の鬼畜ゲーは始まった。
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