1-1:転生したらモブおじだった。

 うーん。なんていう不細工な声とともに起きたと思う。いや、俺が不細工なんてどうかしてる、声だってイケメンな俺だぞ?寝起きだから寝ぼけてそう感じただけだ。

 なんだか嫌な夢を見た。それも鮮明に覚えている。確かクラスメイトのナントカ君に恋敵にされ、その恨みで殺されてしまうっていう悪夢。

 まあ、それもしょうがないのだろう。俺はいつも人目につくような人間だ、疲れてしまって当たり前。

 たまにはこんな夢を見るだろ。と嘆息しつつ、乾いた目を擦りながら起きようとする。

 が。

 あれ。

 尻もちをついてしまった。

 なんだか体がいつもより重い気がする。

 これも寝ぼけているためだろう。

 今度こそ起き上がろうとすると、視界に黒い何かが映る。あれだ、節足動物的な、虫的な何か。

「うわあああああああああ!!!!!」

 きもい。きもい。きもい。きもいっ!!!

 あまりにも驚いてベットから立ち上がり、木製のドアを開けて外へ出る

 ───木製?

 今どき木製、しかもなんのコーティングもされてない木をそのまま切って使ったような素材

 いや、今はそれどころでは無い!

 あの黒い悪魔から逃げなければ!

 突き当たりの階段を降りてそのまま外へ出る、と。

 広がっていたのは中世ヨーロッパを連想させるような木材と石材をふんだんに使い、窓が複数あるような美しい外観。

 そして、人も見たことの無い昔の羊毛や、絹、亜麻などを使っているような服装。

「何がどうなって───」

 口にしてとてつもない違和感。

 声の振動数。音程。響き。全てが違う。

 全体的に低い。

「きゃあああああああああ!」「きゃあああああああああああ!」「きゃあああああああああああああ!」

 周りの女性の声を聞いて安心する。黄色い声援はやっぱりどんな状況でも絶えないんだな、と自分の整った顔の罪深さを笑う

 がしゃ、がしゃ、がしゃ、と3人の全員鉄の鎧身にまとった強面の男が近づいてくる。3人ともフォークを大きくして持ち手の部分を木に変えたような槍を持っている。

 警察とか、か?

 変な街並みといい、変な服装といい、よく分からないことだらけだ。こういう街の人に色々と聞くところから調査を始めるとしよう。

「すいませ───

「動くなッ!!!!」

 確実な敵意を向けた目でこちらを睨みつけながら槍を構えてくる。変に神経を逆撫でするのはまずいと考え、降伏の証として両手を上にあげる。

 これで敵意がないと証明できたのか3人組が近づいてくる。

 そして、次の瞬間。俺は見事なまでに取り押さえられ、ロープでぐるぐる巻にされた

「おい!何すんだ!!」

「何すんだもあるか!自分の体をよく見てみろ」

 あ。と、頓狂な声が漏れるくらい驚愕した。

 裸だった。多分この3人組は俺が裸だから取り押さえたのだろうと得心して、さっきの黄色い声援はただの悲鳴だったのかと理解する。

 いや、そうじゃなくて。

 そうじゃなくて、。全体的に太い。お腹はこんもりと膨れ上がっていて、腕、足は丸太のように太い。筋肉質と言うよりも脂肪の塊のような自堕落な体。

 少し褐色で手入れされていない毛量の多く、濃い毛は線のようにも見えてくるほどだ。

 全体的にだらしないといった印象。

 そこに、驚愕した。 

 だっていつもなら色白で引き締まった毛なんてひとつもない綺麗な肌が広がっているはずなのに。

 咄嗟に辺りを見回して、鏡を探す。こんなの見間違いだという一縷の希望にかけて。

 鏡はなかったが窓に反射した透明な自分を見る。

 ぶよぶよとした膨れ上がった顔。薄くなっている髪の毛。

 あまりにも不細工。

 こういうの、なんていうんだっけ。ほら、同人誌とかでよく見かけるやつ

「おい、早く行くぞ、ついてこい」

 ロープを引っ張られ、3人組について行く。

 そうだ、思い出した。

 モブおじさん。

 通称、モブおじ。

 そして、あの夢が本当は夢でないとしたら。

 ありえない、ありえないけれど、現実が事実としてそうなっている。だとすると、導き出せる答えは

 転生したらモブおじになっていた。

 ということになるのだろう。

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