モブおじ転生
longisgod
プロローグ
高校2年生のイケメンで勉強ができ、スポーツ万能で、お金持ちなただの高校2年生だ。
まあ、スペックを見る限り庶民からは人生の勝ち組と見られるらしい。と、謙虚さを演じているが実際自覚はある。
自覚あり。
大ありだ。
だがしかし、それを悟られてはいけない。今日もまた「別に僕なんてなんでもないよ」なんていう微笑みを浮かべながら道を歩くと女子達の黄色い声援が飛び交う。
人生なんて簡単だ。
ヌルゲー。
まるで自分が世界の中心であるかのように簡単に物事が進んでいく様を見て飽きてくる。
こんなことを考えたことは無いだろうか。自分だけが生きていて、他の人全員がゲームで言うところのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だと思うことは。
意思なんてなく。
空っぽ。
と言っても現状に不満なんて1ミリも、1ミクロンもない。だってそうだろう?俺はイケメンでスポーツが出来てお金持ちな世界の中心である人間なんだから。
さあ、今日もなんてことの無い一日を始めよう。
学校で授業を聞いて。
昼食を食べて。
学校で授業を聞いて。
女子数十名から告白されて、それを断って。
帰って。
寝る。
起きてまたその繰り返し。
昇降口に入り、がちゃん、と鉄製の下駄箱の扉を開けて上履きを出す。外靴を中に入れて閉め、出した上履きを履いたところで一人の男子生徒が同じ動作をしていた。
───まるでNPCのように。
えーっと。確かクラスメイトの・・・なんだっけ?でも、挨拶とかした方が俺の人気は上がるか。
そんな気持ちだったと思う。
「おはよう」少しはにかみながら爽やかな挨拶を告げると相手も挨拶を返してきた
「おやすみ」
え。
───どすん。
と、痛みが走った。
いや、痛みなんてもんじゃない激痛だ。もはや「痛い」とか「苦しい」とか声も荒げられずに、ただただ跪いて激痛の元となる右横の脇腹を抑えた。
とくん。とくん。とくん。
鼓動がどんどん加速する。
どくん。どくん。どくん。
体の全身にもっと血を送らないとという意志を感じる程にどんどん加速していく。
いたい。いたい。いたい。
いたい。いたい。いたい。
いたい。いたい。いたい。
心の中でしか叫べない。
───ぐしゃり。
果物を潰したかのような音とともに背中にさっきと同じくらいの声も失うほどの痛さが駆け巡る。蹲っている俺の背中をナイフだか包丁だかでまた刺したのだろう。
どく。どく。どく。
あ、れ。さっきまでうるさいほどに鳴っていた鼓動が静かになっていく。
ど。ど。ど。
ちょッと待っテ、待ッてクダサイ。
まるでカウントダウンが始まっているみたいで。
「お前がッ!!エミちゃんを傷つけたのがいけないんだッ!!!だからお前もそれと同等の痛みを味わってもらう!!!!ひはは、はははは、はッはッはッ!!!!!」
エミちゃん・・・?誰だ、ソイツ。確か一昨日か昨日かに告白してきて振った相手がそんな名前だっけ。
もう、そんなことはどうでもいい。
嗚呼、意識が───朦朧としてきた。
朦朧が───曖昧になって。
俺は、目を閉じた。目がちかちかして、全てがぼやけてきたから。
眠くなってきたし───
このまま、寝てしまおう。
全部忘れて。
そしたら、またなんてことの無い一日が始まるんだ。
学校で授業を聞いて。昼食を食べて。学校で授業を聞いて。女子数十名から告白されて、それを断って。帰って。寝る。起きてまたその繰り返し。
身体の痛みは麻痺して痛くなくなってきた。
意識が遠のいていく。
おやすみなさい、と俺は世界に別れを告げた。
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