二話 少年の計画㊁
真の心配を他所に、ウィーグルは午後になると、ツリーハウスの側の大きな木の枝に、音もなく留まった。
ここは幻獣の特等席であり、ウィーグルは何時も、そこから真と勝志がサバイバルの訓練をしたり、チャンバラごっこをしたりするのを眺めていた。
日中の陽光の下で、ウィーグルの大きな翼にある綺麗な羽根が、木漏れ日のように光っている。数枚混じるその羽根は、美しい銀色をしており、光りを受けると七色に輝いた。
「よう、ウィーグル! お昼食べたかー?」
ツリーハウスの吹き抜けの窓から、勝志がウィーグルに話し掛ける。丁度、持ってきたおにぎりを食べている所だった。
「私に食事は不用だ」
ウィーグルは嘴を動かさず、穏やかな声で答えた。
幻獣には、食事の必要がない個体がいることを、真は勝志に何度も話しているが、性懲りも無くまた勧めていた。
「たまには食べたくなるかもしれねぇだろ? うめーし」
そう言って勝志は、ウィーグルの為に余分に持ってきたおにぎりも食べ始めた。
「食べなくていいなんて、逆につまんなそうだなぁ」
「今日は
真が勝志を押し退けて、ウィーグルに聞いた。
この島に連れてきた当初、真も勝志も、毎朝、島内に潜むウィーグルを探し出すのを日課にしていたが、この幻獣を見付け出せたのは奇跡だったと思う程、手間が掛かった。結局「匿ってやってるんだから」とこじつけ、毎日顔を出させるスタンスになった。
見付けづらいのは結構だが、あまりに見付からないと「島外に出ているのではないか?」と言う疑念を真に持たせた。
「今日は寝過ごした。それだけだ」
ウィーグルが言い訳をしたが、真は嘘だと思った。食事だけでなく、睡眠も不用な幻獣がいる事を、知っているからだ。
しかし、食べ物を入れないこの幻獣の腹の内を、真は中々、見抜く事ができないでいた。
「怪我の具合はどう?」
「問題ない」
真は、ウィーグルの左前足を見て言った。
この怪我は、出会った時には既にあった。軍隊かハンターか、銃で撃たれたものなのか、詳細をウィーグルは言わなかったが、中々深い傷に見えた。
幸い今は、勝志が治療として巻いてあげた、ピンクのハンカチが不要になる程(実際は捨てたのだろうが)良くなっているようだ。
「じゃあ、そろそろおれを背中に乗せて飛んでくれよ!」
透かさず勝志が、島に連れて来た直後から、散々頼んでいる事を口にした。人がニ、三人乗れそうな、広い背中を見れば、誰もが思う事だ。
しかし、ウィーグルは勝志が頼むたびに「足が痛いから駄目だ」と断るのだった。
真は、これも嘘だと思っていた。飛ぶだけなら、足の怪我は関係ない。実際に、木の枝に乗る程度の飛行を、何時もやっているのである。人が乗ると荷重が掛かるからか、着地の心配か、どちらにしろ怪我が治れば、この言い訳は使えない。
「駄目だ。飛べば誰かに見付かる危険性がある。面倒事は御免だ」
言い訳上手のウィーグル。「低くていいからよー」とせがむ勝志に「それで満足するのか?」と返してる。
真は二者のやりとりを見ながら、今日も幻獣の腹の内を探った。
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