三話 少年の計画㊂

 昼過ぎ、たらふく食べた勝志が昼寝をし始めた頃、真はツリーハウスから見える港に、見た事のない船が停泊しているのに気付いた。一見、唯の漁船に見えるが、この辺りの漁に適した設備がない。

 

 「ウィーグル……ハンターだ……!」


 「!」


 真は確信した。


 「どこだ? どこだ?」


 「乗組員は見えない……もう島に入ってるね」


 飛び起きた勝志が窓から身を乗り出すが、船の様子を見て、真はそう判断した。


 「じゃ、ウィーグルは得意の隠れん坊だ。行こう、勝志!」


 「おっしゃ!」


 真と勝志は、島にハンターがやって来た時の為、事前に対策を練ってあった。

 ウィーグルは大きな体からは考えられない程、静かに飛び上がり、ふわりと森の奥へと消えた。二人はそれを見送った後、それぞれ木の枝で作ったを手に、ツリーハウスから飛び降りて港の方角へと駆けた。

 

 アマリ島の人間は、海には出れど、山には見向きもしない。それをいい事に、真と勝志は森中に罠を仕掛けていた。

 さっそくカランコロンという音が、侵入者の位置を知らせる。

 

 「な、何んなのよコレ!?」


 二人は、森の入ったハンターの一団を発見した。リーダー格と思しき女が、部下の男三人を引き連れている。空き缶を通したロープに引っ掛かり、困惑している様子だった。


 「ライフル装備か。まあまあだね」


 「巨乳だな」


 真がハンター一団の装備を確認する一方、勝志の双眼鏡のピントはズレていた。


 「猿避けか何かじゃないっスか?」


 部下の一人が言う。余り緊張感のない声だ。

 

 「しっかし、姉御。この島本当に幻獣がいるんスか? 人住んでまっせ」

 

 「知らないわよ……。無人島だと思って上陸したら違ったの! ……でも、案外こういう所に隠れているかもしれないじゃないっ」

 

 部下のやれやれといった態度を他所に、勝ち気な女リーダーは、開き直って森の奥を目指し始めた。「仕留めれば一攫千金よー!」と息巻いている。

 真は「対した連中じゃない」と感じたが、女の勘はいいと思った。何せ、幻獣がこの島にいるのは事実だからだ。

 ハンター一団を罠に嵌める為、真は手近な木に素早く登り、予め枝に括ってあるロープを使って、ターザンのように木から木へと乗り移る。そうして、森を進む彼らの頭上にコッソリ移動すると、エクスカリバーを抜き、大きな蜂の巣をはたき落した。


 「え!?」


 ハンター一団は、足元に落下してきた蜂の巣に驚くが、出所を確認する間もなく、ブーンという音と共に飛び出してきた蜂の群れに襲われ、悲鳴を上げた。


 「ぎゃぁあああああああああああ!!」


 一団は防弾チョッキを着ていたが、蜂には無力だった。


 「いでー! 首刺されたっ!!」


 「何で急に蜂の巣がっ!!?」


 「きゃああっ!! ふ、服に入ったあぁ!!」


 「姉御、脱がなきゃ駄目っスよ!!」


 「ちょっと何するのよ!!」

 

 不幸に見舞われたリーダーを、部下が助けようとしたが「変態っ!」と殴られ、順序が逆だが泣きっ面に蜂となる。

 あたふたしているハンター一団を、次の悲劇が襲う。突如、足下の地面が崩れ、森の窪地に転落したのだ。真と勝志が仕掛けて置いた、落とし穴だった。

 

 「痛い……何よコレ……!? 誰がこんな物を……」

 

 最後に真は、止めとばかりに、勝志に合図を出した。

 勝志は森の高い位置に移動している。そこには、大きな丸太が積み上げてあり、ロープで固定されてる。

 真の合図を確認した勝志は、エクスカリバーでロープを切断。……には失敗ったので、代わりに怪力でロープを引き千切ってみせた。

 積み重なっていた重い丸太が崩れ、派手な音を立てながら窪地へと転がって行く。


 「ぎゃぁああああああああああああああ!!!!」


 転がり落ちてくる丸太に気付いたハンター一団が、再び悲鳴を上げ、懸命に落とし穴から這い出て、我先にと逃げて行く。

 

 「な、何なんだこの島はぁ!?」


 「撤収! 一旦、撤収よぉー!!」


 ハンター一団が、半べそを掻きながら森から逃走するのを見て、真と勝志は大笑いだった。

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