第15話 結婚と平和

 3人婚は、魔族社会では珍しいことではない。

 子孫繁栄を種族全体の目標にしている魔族の多くは、基本的に子が多い。

 1人当たり最低でも4人は産む為、それが多妻となれば、一家族10人以上、子供が居るのは当たり前だ。

 人間が鬼族とエルフ族を同時に娶ったのは、すぐに地元紙で報じられた。

 ―――

『【数百年ぶりの珍事! 人間と魔族が結婚】

 生活福祉課に務めている帝国唯一の人間・オルグレン課長補佐が、同課のラン課長と同僚のレヴィ主事しゅじと結婚したことが判った。

 3人は知り合って1か月程度であるが、交際0日のスピード婚となった。

 人間と魔族が結婚するのは手風琴アコーディオン戦争が始まって以来、初のこと。

 敵国の人間が堂々と結婚したことに対し、反人間派からは反対意見が上がっているが、市長は、

「オルグレン課長補佐は、僅か1か月で主事から課長補佐に昇進した優秀な職員である。

 思想調査にも何度も合格し、問題無い」

 としている』

 ―――

 マーヤが通う学校でも、それは話題だった。

「ねぇねぇ、マーヤ。お兄さん、結婚したんだってね?」

「おめでとう」

「ありがとう」

 人気者の周りを沢山の同級生が取り囲む。

 学校でのマーヤは、

才媛さいえん

・人懐っこい

・可愛い

 の三拍子で、男女問わず愛されている。

 1人が尋ねる。

「エルフ族を娶るって、お兄さんイケメンなの?」

「全然。フツメンだよ」

「そうなの? どんな感じなのかな?」

「会いに行きたい。確か市役所―――」

「駄目」

 笑顔でマーヤは、拒否する。

 その圧が凄まじい。

 鬼族やゾンビ、オークの同級生クラスメートたちは驚く。

(本当にブラコンなんだな)

冗句じょうくなのに鬼切れやん。コボルトなのに)

滅茶苦茶めちゃくちゃ、お兄さんのこと大好きやんけ)

 校内では完璧主義者のイメージが出来上がっているマーヤだが、唯一の欠点が『ブラコンが過ぎる』ことだ。

 同級生がオルグレンに興味を抱き、質問をしても曖昧に返したり。

 図画工作では、オルグレンの彫刻を造ったり。

 校内でもそのブラコンぶりを大いに炸裂させているのだ。

 その為、同級生の多くは「マーヤが将来未婚になる可能性が高い」と踏んでいる。

 これほどブラコンが激しければ、どんな美男子でもドン引きするだろう。

『残念美人』、それが校内のマーヤに対する人物評であった。


 その日の夜。

 手続きを済ませたラン、レヴィがルンルン気分で入居を果たす。

「「オルグレン♡」」

 2人はオルグレンを左右から挟み、「良い子♡ 良い子♡」と頭を撫でてている。

 魔族の多くは長寿な分、人間を子供扱いすることが多い。

 外では凛々しい顔で仕事している2人だが、私的プライベートではデレデレなのだ。

 夫婦になり同棲どうせいとなった為、テンションが高いのだろう。

 その膝の上には、マーヤが座っている。

「兄さん、今日もお仕事お疲れ様♡」

 マーヤは笑顔でオルグレンの胴体に抱き着いていた。

 戦前には大陸各地でこのような平和な光景が見られていた筈だが、戦争が始まると両者の関係性は一転。

 憎悪に憎悪が上書きされた激戦が各地で行われているのだ。

 人間は力で勝てない為、科学技術を用い、魔族は数や魔力で対抗している。

 両者の間では報道されていないだけで、難民が殺害されるなどの戦争犯罪が横行し、終わりが見えなくなっている。

 恐らく、両者のどちらかが全面降伏あるいは、全滅するまで戦争は続くだろう。

 そんな状況下で、オルグレンと魔族の関係性は非常に珍しい。

「ありがとう」

 オルグレンもマーヤを抱き締め返す。

「新妻よりも妹?」

「オルグレン、駄目よ」

 ランはその怪力で無理矢理、首を向けさせる。

 レヴィも手を握る。

 新妻より妹を優先するのは家族思いであるが、家族になった以上、妻を優先するのが筋だろう。

「課長、レヴィさん。兄さんをいじめないで下さい」

「あら、役職名で呼ばないでよ」

「そうそう。『義姉ねえさん』って呼んでよ」

 2人は、マーヤの頭を撫でる。

 鬼族、エルフ族、コボルト族の義理の姉妹という訳だ。

 魔族が多種族といえども、この構成は珍しいだろう。

「……きょうだいは兄さんしか呼びたくないんですけど」

「まぁまぁ♡」

「マーヤちゃん♡」

 2人はお菓子でマーヤを釣る。

「……ったく」

 ブツブツ文句を言いながら、マーヤは2人からお菓子を貰うのであった。


[あとがき]

 当初の予定通り、このお話で物語は一旦、終わります。

 書いていて非常に楽しかった為、現在、主に他の2作品の方に力を入れていますので、そちらが終わり次第(どちらも1000話完結予定)、こちらに尽力することも考えています。

 ただ、あくまでも予定ですので、構想が固まりましたら、再び筆を執ることも考えています。

 短い間ですが、ご愛読下さりありがとうございました。

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異世界生活福祉課 パンジャンドラム @manjimaru

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