第四十三話

 次の週。桐山と佐野が工場に行ってみると、ドーナツの他にタルト、ワッフル、大福もち、ゼリーの試作品ができていた。


 それを商品開発課に持って行き、里美も加えて三人で食べてみた。

 里美は、感動した。

「どれも美味おいしい! それなのにどれも、カロリーが半分なの?!」


 桐山と佐野は、うなづいた。

 里美は、続けた。

「これはもう、罪悪感ざいあくかんが無く食べられるわね……」


 すると桐山が、ひらめいた。

「里美さん! この『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾の商品は別名、『カロリー半分、罪悪感無しスイーツ』にしませんか?!」


 里美は、合意した。食べ過ぎて太るから売れなかったスイーツを逆手さかてにとって、罪悪感が無く食べられることをうまく表現していると。


 そして里美は営業二課の課長、つまり私に連絡をしてきた。カロリーが半分のスイーツを開発したと。桐山と佐野が持ってきたスイーツを食べて、私も驚いた。普通に美味しかったからだ。しかもこれらは、最初の第三弾スイーツに比べてカロリーが半分?


 私は考えた。これなら売れるはずだ。しかし私は慎重しんちょうになった。これらを大量生産するには、まだ早いと。最初の第三弾スイーツは売れなかったため結局、破棄はきすることになったからだ。そのあやまちをかえす訳にはいかない。取りあえずこれらの試作品しさくひんでプレゼンをするように私は、桐山と平井に指示を出した。


 ●


 次の日。早速さっそく、係長の平井、桐山、そして新人の堀北は東京にある大結だいけつスーパーの本社ビルの前にいた。堀北は、緊張していた。初めてのプレゼンだからだ。しかもこのプレゼンには、社運しゃうんがかかっていると言っていい。


 すると桐山が、はげました。

「大丈夫。昨日、教えたように、大事なことを最初と最後に言って印象付いんしょうづければいいんだ」


 平井も、告げた。

「そうよ。もしうまくいかなくても、責任は係長の私が取るわ」


 すると堀北は、り切った。

「絶対、成功させてみせます!」


 大結スーパー本社ビルの七階の大会議室には、すでに商品購入検討課しょうひんこうにゅうけんとうか岩崎いわさき課長、菊岡きくおか係長、それと三人の社員が座っていた。そのうちの一人は、女子社員の絹本きぬもとだ。


 絹本がいついた商品は売れる、というのはジンクスではなくすでに絶対になっていた。だから岩崎も菊岡も、絹本に頼っていた。


 岩崎は、聞いた。

「何でも、『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾の商品を改善かいぜんしたんだって? でもなあ……」


 すると平井が、告げた。

「まずは弊社へいしゃのプレゼンを、お聞きください」




 堀北は緊張しながらも、プレゼンをやり終えた。

「……という訳で、この『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾の商品は別名、『カロリー半分、罪悪感無しスイーツ』と命名させていただきます」


 プレゼンが終わった瞬間、絹本が食いついた。

「カ、カロリー半分、罪悪感無しスイーツ……。す、すみません! それ、試食できますか?!」


 早速、桐山が袋に入ったドーナツを手渡てわたした。

 それを食べた瞬間、絹本にスイッチが入った。

「う、う、美味いぞー! これでカロリーが半分?! これは買うしかないわ! 買うしかないわ!

 あ、そうだ。一ついいですか? このドーナツをSNSにアップしたいんですけど、いいですか?」


 桐山は、笑顔で答えた。

 絹本のテンションは、爆上ばくあがりした。

「く、くる! これは、くるでええええ! 『いいね』の嵐が、くるでええええ!」


 その様子を見ていた菊岡は、岩崎にささやいた。

「岩崎課長、これは言うまでもなく……」


 岩崎は、無言で頷いて聞いた。

「平井さん、ちょっといいですか?」

「はい。何でしょうか?」

「このスイーツ全五種類を、各スーパーに百個づつ置いて様子ようすを……」


 すると絹本が、会話に割り込んだ。

「岩崎課長! 二百個づつです!」


 もはや最年少係長になるのは、時間の問題とウワサされる絹本に岩崎は乗った。

「ひ、平井さん! 二百個、二百個づつ!」


 平井は、頭を下げた。

「ありがとうございます。早速、契約書けいやくしょを作らせていただきます」

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