第四十一話

 商品開発課にきた桐山を、里美が出迎でむかえた。

「ありがとう、桐山君! また手伝ってね。良い仕事、期待してるわよ!」


 すると桐山は、聞いてきた。

「もちろん、僕一人で探すわけじゃないですよね?……」


 里美の笑顔が、はじけた。

「もちろん!」


 そして、ちょっとモジモジしてる佐野を連れてきた。

「それじゃあ、今回も佐野ちゃんと一緒に仕事してくれる?」


 桐山は、佐野を見て答えた。

「多分、そうなると思ってましたよ……。でも、いいですよ。佐野さんは優秀なので」


 すると佐野は、深々と頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 そして佐野の机の隣に座った桐山は、確認した。

「取りあえずドーナツの材料を探しますが今回も材料を探す時、原材料にこだわるんですよね?」

「はい。できれば天然素材で、お願いします」


「分かりました。では今回は、手分けをしませんか? 僕が低カロリーの卵と牛乳を探すので、佐野さんは低カロリーのバターと小麦粉を探す、というのはどうでしょう?」


 佐野は力強くうなづくと早速、ノートパソコンで材料を探し出した。


 それらを見ていた里美は、これは予想以上にうまく行くんじゃないかしら? カロリーが半分の『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾の商品が開発されて、うまくいけば佐野ちゃんと桐山君が、くっつく。一石二鳥じゃないかしら! おーほっほっほっ! という表情をしていた。


 一方、最近は全然、佐野が相手をしてくれないので神崎は、すねていた。


 ●


 一時間後。佐野と桐山は、探した結果を話し合っていた。

 まず、桐山が切り出した。

「やはりカロリーゼロの卵は、ありませんでした。牛乳もカロリーがゼロの物はありませんでしたが、低脂肪乳ていしぼうにゅうがありました」


 続いて佐野が、報告した。

「まずバターですが、カロリーと脂質が半分の物がありました。小麦粉はカロリーがゼロの物はありませんでしたが、グルテンフリーの米粉こめこがありました」


 グルテンフリーとは、小麦などに含まれるグルテンを含まない商品。グルテンの摂取せっしゅを抑えることで便秘や下痢、腸内環境の改善、それによる肌荒はだあれやニキビなどの肌トラブルの改善、何となく体調がすぐれない、倦怠感けんたいかんなどの改善が期待できる。


 更に佐野は、続けた。

「あと、油も調べました。カロリーがゼロの油は無かったんですが、調理で吸収される油の量を二割カットできる物を見つけました」


 桐山は、満足そうに頷いた。

 そしてその日の夕方までに、タルト、ワッフル、大福もち、ゼリーに使うカロリーがゼロ又はカロリーが低い、健康に配慮はいりょした原材料を見つけた。


 ●


 佐野と桐山の二人はその結果を、里美に報告した。

「なるほど、ありがとう。早速だけど二人でまた、商品の試作品を作るための材料を商談で手に入れてきてくれない?」

 二人は、頷いた。


 次の日の朝から二人は日本中を飛び回り、原材料を作っている工場を訪ねて商談しょうだんを重ねた。そして五日目の昼に、全ての原材料を商談で手に入れることができた。


 東京駅で二人は、さすがにくたくたになっていた。

 桐山は、息を切らしながら告げた。

「や、やっと終わりましたね、佐野さん。しかしこれは、営業の仕事よりもハードかも知れない……」


 佐野も、息を切らしながら答えた。

「はあはあ……。今回は特別ですよ。第三弾の商品を売るためには、カロリーを半分にする必要があるので急いだんです。いつもはもっと、時間に余裕をもって探しているはずです……」


 そして二人で、微笑ほほえみあった。

 すると突然、佐野が二人で打ち上げで、ディズニーランドに行かないかと提案した。普段なら断ったであろう桐山も、仕事が一段落した開放感から頷いた。


 佐野は少し、はにかみながら桐山を見つめた。

「良かった。私、どうしても桐山さんと一緒に思い出を作りたかったから……」


 桐山は今まで感じたことが無い胸のざわめきを感じたが、表情には出さなかった。


 早速ディズニーランドに行くと、レストランでチキンとトマトのカルツォーネとドリンクを頼んだ。昼食が終わると佐野は、ランド内に飛び出した。一緒にアトラクションに乗ろうと桐山を誘ったが、桐山はアトラクションが苦手だった。


 そのためまずは、ドリーミング・アップというパレードを見た。更にクラブマウスビートで、キャラクターのダンスなどを楽しんだ。


 桐山が、そろそろ帰る時間かな? という表情をすると佐野は頼んだ。ぜひ見たい場所があると。そこはシンデレラ城だった。白と灰色のまさに、おとぎの国から飛び出したような城に、思わず桐山も見入った。


 するとオープンカーが、近づいてきた。よく見ると真っ白なウエディングドレスを着た女性と、王子様のような恰好かっこうをした男性が乗っていた。

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