第四十話

 桐山の感想を聞いた里美は、一気にめた。

「じゃあさあ、付き合っちゃいなよ?」


 すると桐山は、すぐに答えた。

「いや、それはちょっと……」


 里美が、どうしてと聞くと、桐山は女性は面倒めんどうくさいと答えた。桐山の話によると高校一年の時に同じクラスの女子と付き合ったが、とにかく面倒くさかったそうだ。


 携帯電話に一時間おきにメールがきたり、毎週日曜日は必ずデートしてと言ってきたり、桐山が他の女子と話をすると必ず不機嫌ふきげんになった。なので付き合って三ヵ月で、桐山から別れを告げた。それ以来、女性とは付き合っていないという。


 里美は、うーむ、これは困ったわね、という表情になった。でも、何とかしようと思った。


 そこで焼鳥屋での食事が終わると、カラオケに行った。

 佐野は福山雅治の『あやかし』、桐山はnobodyknows+の『ココロオドル』などを歌った。里美は歌わずにマラカスを鳴らし、その場を盛り上げた。


 カラオケで一時間、歌い終わると里美は桐山をさそってみた。

「すっかり、いがめちゃったわね。次は、おしゃれなバーにでも行かない?」


 すると桐山は、明日も仕事があるからと断った。また、お世話になりましたと二人に告げた。


 なのでバーには、里美と佐野の二人きりで行くことになった。

 カクテルを飲みながら、里美はつぶやいた。

「どうやら桐山君と付き合うのは、無理そうね……」


 しかし佐野は、くだをまいた。

「でも好きなんですよ、私! あんな人、今まで出会ったことが無いんですよ!」


 里美は、聞いてみた。

「そんなに好きなの? そんなに付き合いたいの?」


 すると佐野は、コクリとうなづいた。


 里美は右手で胸をたたき、宣言した。

「だったら私に、まかせなさい!」


 ●


 その日の夜、レモンティーを飲みながら里美は私に、ある提案をしてきた。

 少し考えて、私は答えた。

「ふーむ、なるほど……。うん。それも、ありだな」




 次の日の朝。課長の席に着いた私は早速さっそく、桐山を呼んだ。

「桐山君、ちょっときてくれるかな?」


 不思議そうな表情をしている桐山に、私は告げた。

「商品開発課の係長から聞いたよ。カロリーがゼロの砂糖を、ちゃんと見つけたそうだね。ありがとう。ところで……」


 と私は、説明を始めた。『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾はドーナツ、タルト、ワッフル、大福もち、ゼリーの五つだ。当然、砂糖も使う。だが砂糖だけカロリーがゼロでも、不十分だ。


 例えばドーナツは砂糖の他に卵、牛乳、バター、薄力粉はくりきこなどを使い油でげる。これらの材料のカロリーを減らさなければ、結果的にドーナツのカロリーは半分にはならない。なので他の材料も低カロリーの物を探して欲しいと、商品開発課の係長に頼まれたと。


 桐山は、小さなため息をついた後に聞いてきた。

「商品開発課の係長って、里美さんのことですよね?」


 私は、頷いた。


 すると桐山は、自分の意見を言った。

「でも僕の仕事は、営業ですよ? そう何度も商品開発課に行くのは、どうかと思うんですが……」


 私は、説明した。今のままでは『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾の商品は売れない。第三弾の商品を売るためには、カロリーを半分にする必要があると思う。

 だから他の材料の、低カロリーの物を探して欲しい。それにこれは人材交流にもなる、と。


 すると桐山は、ううむとうなった後にげた。

「確かに、そうですね……。分かりました。もう一度、商品開発課に行って材料を探します。今から行けば、いいんでしょうか?」


 私は再び、頷いた。


 桐山は、った。

「それでは、行ってきます!」

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