第三十八話

 桐山は、少し困惑した。

「え? でも僕の仕事は営業ですけど……」

「いいから、いいから。アイディアを出したのは桐山君なんだから。ねえ、平井さん、どうかしら?」


 平井も少し考えてから、答えた。

「確かに、そうね……。それに、このまま営業を続けても売れるとは思えないし……。

 うん、いいわ。桐山君、砂糖探しを手伝ってあげて」

「は、はあ……。係長の平井さんが、そう言うなら……」


 そして更に里美の提案で、商品開発課の佐野と桐山が一緒に砂糖を探すことになった。


 佐野は、少し驚いた。

「え?! 私がですか?!」


 すると里美は、言い切った。

「そう。これは係長命令だから、しっかり探すのよ!」


 佐野は渋々しぶしぶ、了解した。

「はーい……」


 里美は、ニヤリと笑った。これで佐野と神崎を引き離せられる。そしてうまくいけば佐野と桐山をくっつけられるかも知れないと、という表情をした。


 ●


 そして桐山は次の日から、商品開発課で砂糖探しをすることになった。佐野の隣の席で。


 桐山は、佐野に指示した。

「それではインターネットで、カロリーがゼロの砂糖を探しましょう。取りあえず、目についたものをリストにしましょう」

「はーい」


 一時間後、桐山と佐野はリストを作った。次にそれぞれ、その中で一番、良いと思われるカロリーがゼロの砂糖を決めることにした。


 まず桐山が、佐野に告げた。

「僕はP社の砂糖をします。カロリーはもちろん、糖類とうるいもゼロですから」


 すると佐野は、答えた。

「あー、P社の砂糖ですか。それは私も調べたんですが、推せません」

「な、どうしてですか?! ちゃんと理由を説明してください!」


 そして佐野は、P社の砂糖は原材料が人工甘味料じんこうかんみりょうであることを説明した。更に佐野はR社の砂糖を推した。原材料が天然素材てんねんそざいで熱に強く、スイーツを作るのにてきしているからだと。


 桐山は、うなった。

「うーむ、原材料ですか……。僕はそこまで、考えていませんでした……」

「今のお客様は健康にも気を使っているので、原材料まで考えないといけないんです。これ、商品開発の基本ですよ?」


 これを聞いて桐山は、なるほど、この佐野という女性は見た目はチャラいがちゃんと仕事ができる女性で感心する、という表情をした。


 そして二人はR社の砂糖を『ゴールドスィーツ・シリーズ』に使った方が良いと、里美に報告した。


 里美は説明を聞いて、納得した。

「なるほど……。それじゃあ、R社の砂糖を使ってみましょう。どこで作っているか、分かる?」


 佐野が資料を見ながら、答えた。

「はい。三重県の工場です」

「そう。それじゃあ、そこに行って砂糖を使わせてもらうように、商談しょうだんしてきて」

「え?! 私が商談するんですか?!」


 すると里美は商品の材料確保のための商談も大事な仕事だと、佐野を説得した。だが佐野は今まで商談をしたことがない、と反論はんろんした。


 すると里美は、笑顔で答えた。

「そう、ならちょうどいいわ。良い経験になるだろうから、行ってらっしゃい」

「はーい……」


 ●


 そして次の日、桐山と佐野は新幹線で三重県に向かった。名古屋駅で乗り津駅つえきに着いた時には、ちょうど昼時だったので駅ナカのレストランで、伊勢いせうどんとちょっと高かったが伊勢えびの刺身を食べた。伊勢うどんは太くて柔らかいめんめずらしく、また伊勢えびの刺身は心地よい弾力と甘みがあり二人は満足した。


 そしてタクシーでR社の工場に向かった。昨日きのうのうちに砂糖を使わせてもらいたいと連絡をしていたので、工場の中に入ると早速、担当者と商談が始まった。


 担当者は、切り出した。

「うちの砂糖を使いたいということで、ありがとうございます。ところで、どれくらいの量を買われますか? 多く買っていただいた場合は定価から一割、値引ねびきさせていただきますが?」

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