第三十七話

 その日の午後十時。勇太ゆうたを寝かしつけた里美は私とリビングで、テーブルで向かい合いレモンティーを飲んでいた。寝る前に最近あったことを話す、毎晩の夫婦の時間だった。


 私は『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾が不振ふしんなこと、里美は佐野と神崎が必要以上にイチャイチャして困っていることを話した。


 里美は、ため息交いきまじりに告げた。

「ふう、お互い大変ね……」

「うん、でも神崎のことはまかせた。まあ、悪い奴じゃないから話せば何とかなると思うんだけど……。

 俺は今、『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾のことで頭がいっぱいだ……」

「そうね、そっちも何とかしないとね……」


 ●


 次の日の朝。私が席に座ると、桐山の声が聞こえた。

「よし! よく探してくれた、堀北君!」


 堀北貴一ほりきたきいちは今年入社した新人で、桐山が仕事を教えていた。

 堀北は、れながらも答えた。

「はい、ありがとうございます……。でも実は、少し自信が無くて……」

「いや、いける。これは、いける!」


 営業二課では仕事の指示を出すと、あとは細かいことは指示しなかった。自分で考えて仕事をした方が、伸びると考えているからだ。ただ分からないことがあったら聞くように、とは言ってある。そして今回、堀北は桐山に指示された仕事を、見事にやり切った。


 それに堀北は、パートの長瀬美沙子ながせみさこにも手伝ってもらったと説明した。長瀬はパートなので、いつも午後三時には帰り残業もしない。でもこの会社は正社員とパートの時給が同じだからと言ってがんばって二年間、働いてくれている。


 長瀬も、桐山に告げた。

「いえいえ。私は、ちょっとアドバイスをしただけですよ。堀北君が、がんばったからですよ」


 そんな二人を桐山は、ねぎらった。

「とにかく、ありがとう二人とも。これで『ゴールドスィーツ・シリーズ』の第三弾は、何とかなるかも知れない!」


 そして桐山は、意気込いきごんで私に説明した。『ゴールドスィーツ・シリーズ』を食べ過ぎて太ってしまうなら、スィーツのカロリーを半分にすれば良いのではないかと。


 私は、その説明に納得した。

「なるほど、その手がありましたか……。分かりました、商品開発課に相談してみましょう」


 その日の午後、早速さっそく、平井と桐山は商品開発課に行って、里美と佐野に会った。話し合いは、小会議室で行われた。


 桐山の提案に、里美は腕組みをして聞いた。

「なるほど……。で、具体的には、どうするの?」


 桐山は現在はカロリーがゼロの砂糖があるから、それを使えば良いのではないかと提案した。


 里美は、少ししぶった。

「うーん……。『ゴールドスィーツ・シリーズ』に使っている、きび砂糖にはこだわりがあるんだけど……」

「でも、売れないのは困ります」

「うーん、確かに、そうよね……」


 そして里美は、具体的にどの砂糖を使えば良いと考えているのか聞いた。桐山は現在、多くのカロリーがゼロの砂糖があるから、それは商品開発課に決めて欲しいと答えた。


 里美は、少し考えてから答えた。

「なるほど。それもそうよね……。あ!」

「どうしたんですか?」

「桐山君、今、彼女とかいる?!」

「え? いませんけど何か?」


 里美は、はじけるような笑顔で佐野と桐山にどの砂糖を使えば良いのか探して欲しいと指示した。

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