第三十四話

 里美との結婚式を一週間後に控えた日、私は部屋の掃除そうじをしていた。結婚式が終わったら私のマンションで一緒に住むことにしていたので、里美の荷物を置くスペースを作らなければならなかった。


 しかし優子の衣装いしょうケースなどのスペースがいていたので、そこを使うことにした。なのでその日は、部屋の掃除をすることにした。


 玄関、キッチン、リビング、そして寝室などを掃除した。優子がいた頃は優子が掃除をしてくれていたが、いなくなってからは、たまにしか掃除をした記憶がなくて一年以上たまったゴミを掃除している気分になった。


 そして掃除の途中、ふと写真立てが目に入った。この写真は、どうしようか……、と思わず考えた。しかし、このままにしておいたら、『いつまでもこんな写真を持っていたら、里美さんに失礼でしょう?』と優子にしかられる気がした。


 それで優子のこの写真は、処分することにした。でも、と私は思った。

 でも卒業アルバムをめくり初恋の人を懐かしむように、いつか夜空の月を見上げて優子のことを思い出す日がくるかもしれないと思った。


 私は写真立てを手に取り見つめ、つぶやいた。

「それくらいなら、いいだろう? 優子?」


 優子は写真立ての中で、幸せそうに微笑ほほえんでいた。


   ●


 そして結婚式の当日になった。

 里美は準備室で専属せんぞくのヘアメイクアーティストに手伝ってもらいへメイクとウェディングドレスへ着替えをした。私は、タキシードに着替えた。


 新郎新婦の二人だけで記念撮影をするための部屋に入ってきた里美は、神妙しんみょうな表情で聞いてきた。

「どう、信吾。このウェディングドレス、似合にあってる?」


 私は、笑顔で答えた。

「うん、似合っているよ。とても」


 すると里美は、微笑んだ。

「そう、えへへ」


 記念撮影が終わると、挙式きょしきのリハーサルが行われた。そして本番。入場曲には里美が好きな宇多田ヒカルの『Automatic』が使われた。


 ベージュの祭服さいふくを着た司祭者しさいしゃうながされ私たちは指輪を交換し、結婚証明書にサインをした。


 司祭祝辞しさいしゅくじが終わると私たちは客席に振り返って、宣言した。

「私たちは永遠に愛し合うことを、ここにいる皆さんへちかいます!」


 そしてキスをした。すると客席から、大きな拍手がき起こった。


 最後にブーケトス。


 里美は後輩の佐野さのに、目で合図をした。

『分かっているわね』


 佐野も、うなづいた。

『はい、分かっています』


 里美は招待客しょうたいきゃくに背を向けながらも、佐野がいる方向にブーケを投げた。


 見事に佐野がキャッチすると、二人で喜んだ。

「やったー!」


 それから近くにある、小さな提携ていけいレストランで食事会が行われた。


 私と里美が二人で並んで座っていると神崎が、やってきた。

「信吾、里美ちゃん、おめでとう。里美ちゃん、可愛かわいかったよ」

「ありがとうございます、神崎さん。これからも、よろしくお願いします」

「うん、こちらこそ」 


 すると今度は麻理がやってきて、頭を下げた。

「里美、おめでとう。良い結婚式だったわ。信吾さん、これからも里美を、よろしくお願いします」


 私は、笑顔で答えた。

「はい、まかせてください」

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