第二十九話
三年前の六月。
中型のセダンを運転している
「しかし里美とは二年近く付き合ってきたけど、今日が一番テンションが高い気がするけど?」
助手席の里美は、『当然!』という表情で答えた。
「そりゃそうよー! 何たって今日は、ウェディングドレスを選ぶ日なんだから。もしかしたら女の子の人生の中で一番、大事な日かも知れないわ!」
「おいおい、何か結婚式よりも大事ってくらいの
「うーん。ひょっとすると、そうかも……」
浩一は、良く通る低い声で返した。
「おいおい。頼むよ、本当に……」
だが
「あーん、どうしよー! 色は白って決めてたんだけど、こうして見てみるとピンクも
と里美は浩一を置いてきぼりにして、白、ピンク、黄色などのウエディングドレスが一列に並んである店内を走り回った。店員の話によると、買い取りもできた。
浩一が少々うんざりしていると、試着室から真っ白なウェディングドレスを着て満面の笑みを浮かべた里美が、聞いてきた。
「どう、これ? 似合う?」
浩一は、がんばって笑みを浮かべて答えた。
「うん。とても似合っているよ」
「えー? 何か感情が、こもってなーい! 本当に、似合ってる?」
すると、すかさず女性店員が答えた。
「大変、良く似合っていらっしゃいますよ。お客様」
「え? 本当ですか? やっぱり女性は分かるなー。それに引き
浩一は、あごは四角く髪は真ん中で分けていて、そして優しい目をしていた。
浩一は、ついに頼み込んだ。
「本当に似合ってるって、思ってるって。もう、頼むよー」
「まあ、いいわ。色もデザインも、これが一番。店員さん、これに決めました」
「ありがとうございます。お客様」
車に戻っても、里美のテンションは高いままだった。
「ああ。一週間後に、あれを着るのね。今から待ちきれないわ」
「おいおい。結婚式は、どうなんだ?」
「もちろん、楽しみよ。っていうか、あのドレスを着て式を
「はいはい。そうですか」
「あ、そうだ。親友の
浩一は、心からの笑みを浮かべて聞いた。
「ふふっ。よっぽど気に入ったんだな、あのドレス?」
里美は、満足げに答えた。
「うん、色もデザインも。それにサイズもぴったりだったし」
そして聞いてきた。
「ねえ、明日は日曜日なのに会えないの?」
「ああ、明日は休日出勤をする。式が終わったら、すぐに新婚旅行だろ。たまっている仕事は、できるだけ片付けたいんだ」
「そう、だったら仕方ないわね。でも、そうすると今度、会う日は結婚式の当日?
間違っても
「ああ、分かってるって」
そして、いつものレストランで食事をとると浩一は、里美をアパートまで送った。
車から降りた里美に告げた。
「それじゃあ今度、会うのは結婚式だな。少し、さびしいけど結婚したら毎日、一緒に
「ええ、そうね。それじゃあね」
と浩一は里美に、キスをした。里美はマンションに戻る浩一の車を、見えなくなるまで見送った。
次の日の日曜日。里美は麻理に電話をかけた。
『それでさー、今から、そのドレスを見に行かない? いや、ぜひ見せたい! すっごく可愛いんだから!』
『でも今度の日曜日の結婚式で、見れるんでしょ? いいわよ別に』
『もー! 自分は、もう着たからってテンション低いなー。もしかしたら、もう一度、着ることになるかも知れないのに?』
麻理の中の何かが切れた。
『ちょ! 何、言ってんのよ、あんた! そういうあんたこそ、わがままばっかり言って、浩一さんに嫌われても知らないから!』
『ふーん、だ。そんなことで嫌われないほど、私たちはラブラブなんですー!』
『はぁー……。もういいわよ、分かったわよ。今からアパートに行くから、待ってて』
『はぁーい! それじゃあ、待ってる!』
電話を切ると、里美は考えだした。
「さ・て・と。それじゃあ今日は、何を着ようかなー?」
するとテレビのアナウンサーの、声が聞こえた。
「それでは、次のニュースです。昨夜、県道で飲酒運転のワゴン車が対向車線をはみ出し、中型のセダン車と
その
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