第二十三話

 部屋に一人になった里美は、スマホを手にして親友の麻理へ電話をした。

『ねえ、ちょっと聞いてよ麻理! 信吾ったら、ひどいのよ!』

『え? どうしたの?』


 里美は、不満そうに言った。

『今日、私の部屋に信吾がレンタルしたDVDを持ってきて観たんだけど、つまんなくて「つまんない」って言ったら怒っちゃて。

 ご飯を作ってあげようと思ってたんだけど、やめちゃった!』

『ふーん。ちなみに、何ていうDVDなの?』


 里美は、あるミステリ映画の名前を言った。


 麻理は、冷静に答えた。

『あー、知ってる知ってる。私も見たことがあるけど、結構面白かったわよ』

『えー、でも主人公とヒロインのロマンスが、少ししかないんだよ!』

『あー、あれはロマンスって言うより、ミステリーかな』

『信吾も同じこと、言ってた……』


『だから、そういう目線で見ればいいんじゃない?』

『確かにミステリーとしては、良くできていたと思うけど……』

『ふう……。それにしても、そんなことでケンカをするなんて。ケンカするほど仲が良いって言うけど、ちゃんと仲直りできるカップルは長続きするのよね』

『え? どういうこと?』


『信吾さんが持ってきたDVDを「つまんない」って、自分の意見を我慢しないで、ちゃんと言うのはいいわ。

 でも信吾さんの意見も、ちゃんと尊重そんちょうしなくちゃね』


 里美は、真剣しんけんに返事をした。

『う、うん』


 麻理は、さとすように告げた。

『とにかく、相手が間違っているって決めつけるのは、良くないわね』

『はい、反省します……。で、私は、どうしたらいいかな?』

『うーん……。じゃあさ、今度は里美が面白いと思うDVDを見せるっていうのは?』

『あ、それ、良い考え! そうしてみる! うーん、信吾はロマンスが嫌いなわけじゃないと思うの。この前に観た恋愛映画は、面白かったって言ってたし……』


 そして里美は、ある恋愛映画の名前を言った。

『あー、あれは名作よねー。そういうのだったら、信吾さんも喜ぶかも』

『うん、今度それを信吾に見せてみる。あ、ついでに信吾のマンションに行ってみようかな? まだ、言ったことないし』

『へー、そうなんだ。うん、いいんじゃない』

『よし。そうと決まれば、信吾に電話しよーっと!』




 そして里美は、私に電話をかけてきた。私は、すぐに電話に出て、あやまった。

『さっきは、ごめん。大人おとなげなかった』

『ううん。私こそ、ごめん。言いすぎた』

『今度は俺の部屋に、こないか?』


『うん、そう思ってたところ。お弁当を作って、私が好きなDVDを持って行くよ』

『そうか、楽しみにしているよ。それじゃあ、おやすみ』

『うん。おやすみなさい』




 私のマンションにきた里美は、リビングを見渡して感心した。

「わー。イメージ通りの落ち着いた部屋。そして結構、片付いてる!」


 リビングには木目がきれいなテーブルと二脚のイス、ベージュのソファに四十三インチのテレビがあった。


「片付けは、結構するんだ。どこに何があるか、分からないと困るから。

 でも掃除は、あまりしないかなあ。今日は特別に掃除したよ」


 私は午前中に掃除をしておいて良かったと、ホッとした。 


 里美は、紙袋を持ち上げて聞いてきた。

「どら焼きを買ってきたんだけど、食べる?」

「うん。お茶をれるから、ちょっと待ってて」

「自炊とかするの?」

「朝や休日は簡単な物を作るけど、夜は弁当屋の弁当が多いかなあ」


 すると里美は、真顔で告げた。

「ダメよ。ちゃんと野菜も食べないと!」

「優子にも、似たようなことを言われたよ」


 そして里美は、優子の写真を見つけた。

「あ、ひょっとして優子さんですか? うわー、きれいな人ですねえ……」

「うん。ありがとう」


 私たちは、どら焼きを食べた後、里美がレンタルしてきたDVDを観た。


 里美が、ドヤ顔で聞いてきた。

「どう? 面白かったでしょ?」

「うーん。ラストが、よく分からないような……」


 すると里美が、熱く語った。

「それよりも、残酷ざんこくな運命に引きかれても健気けなげに愛し合う二人、感動じゃない!」

「うーん。でもなあ……」

「もう、知らない! 私、帰る!」


 里美はDVDと弁当を持って、帰ってしまった。

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