第十八話

 日曜日の午後二時、麻理まりのスマホが鳴った。表示を見てみると里美からだった。


『もしもし。どうしたの里美?』

『あ、麻理? 今、時間ある? ちょっと話したいことがあるんだけど。いつものカフェにきてくれない?』

『何? 電話じゃ、ダメなの?』

『うん。親友の麻理には直接、会って話したいんだ』

『そう……。ちょっと待ってね』


 麻理はスマホの通話口を手でおおい、振り返り夫に聞いた。

「ねえ、あなた。ちょっと出かけてきたいんだけど、子供たちの世話を頼みたいの。いいかしら?」

「ちょっとって、どれくらい?」

「たぶん、二時間くらいだと思う」

「それならいいよ、行っといで。たまには外に出てくると、良いよ」

「ありがとう」


 麻理の夫は子供の世話も得意で、おしめの交換もできたし、ミルクも作れたし、絵本の読み聞かせなども、たまにしていた。


 麻理はスマホをにぎりなおして、答えた。

『ええ、いいわよ。今から行くわ』

『ほんと? ありがとう。それじゃあ待ってる』と電話は切れた。


 麻理は外出着に着替えると、マンションを出た。




 麻理は入り口の右側に、パフェなどのデザートのサンプルがある、カフェに着いた。


 中に入ると奥のテーブルで里美が、手招てまねきしていた。

「麻理、こっちこっち」


 麻理は長方形のテーブルに里美と向かい合って、座った。


 里美は、鼻歌を歌いながら、カフェラテを飲んでいた。

「フンフンフーフフフフフーン」


 麻理は、聞いた。

「どうしたの? ずいぶん、ご機嫌きげんね?」


 里美は、デレデレしながら答えた。

「新しい彼氏が、できました~」


 そして里美は額がほどよく広く、髪は首までの長さのショートカットの麻理を見つめた。


 麻理は、聞いた。

「へー、どんな人なの?」


 里美は、再びデレデレしながら答えた。

「同じ会社の人で、清水信吾さんっていうの~。ちょっと年上だけど、素敵な人なの~」

「へー、同じ会社の人なんだ? 今まで会ったこと、あるの?」

「ううん。やっぱり部署が違うと、会う機会もないから……」

「里美が勤めている会社は結構、大きいから、そういうこともあるか」

「でも今月、一緒に仕事をする機会があって、それで知り合ったの」

「ふーん、それで?」


 里美は、さらにデレデレしながら答えた。

「昨日、会った時に付き合ってくれって、告白されちゃった~」

「それで、これから、どうするの?」

「どうって、もちろん付き合うわよ」

「ふーん、結婚とかは?」

「それは、まだ分からないけど……」

「へえ……」


 麻理は少し、違和感いわかんを感じていた。これまでは彼氏ができると

「絶対、結婚してやる!」

「絶対、幸せになってやる!」と息巻いきまくのだが今回は、それがないからだ。里美は、うっとりとした表情で、カフェラテを飲んでいる。


 麻理は病室で、うつろな目をしていた里美を思い出した。

 あれから三人目の彼氏か。三度目の正直。今度こそ素敵な人に出会えたのかな、と思った。


   ●


 金曜日の夕方。里美が来週、元の商品開発課に戻るので私たちの係は、ささやかな送別会を開いた。明るく仕事もできた里美は、この一カ月で、すっかり私たちの人気者になっていた。


 それで別れをしんで海鮮料理が名物の、この居酒屋で送別会を開くことになった。


 結局、誰も神崎でさえも、『さっちゃん』とは呼ばなかったが。


 私が、ふと見ると里美は、里美と一緒に仕事をした平井ひらいと話し込んでいた。


 平井は、聞いた。

「あなた、清水さんと付き合っているんですって?」

「はい。先週、告白されました~」

「それでかしら? 最近の清水さん、元気が出てきたように見えたのは?」

「え? そうなんですか?」


 平井は、真剣な表情で告げた。

「元々あまり、顔に出すような人じゃないけど、やっぱり優子さんが亡くなってからは元気がないように見えたわね……」

「そうですか……」

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