第十六話

 病院に着くと優子は、すぐに集中治療室に運ばれた。


 そして私は、主治医に言われた。

「非常に危険な状態です。すぐに、ご家族を呼んでください」


 私は、スマホで義父に電話をかけた。すると義父と義母は、すぐに病院にけつけてきた。


 そして義父に、聞かれた。

「容態は、どうだね?」

「非常に危険な状態だ、そうです……」


 義母は、私を責めた。

「信吾さん! あなたがついていながら、どうして?!」

「すみません。私が外泊を、しようと言ってしまって……」


 義父は、険しい表情で言った。

「でも、それは優子が望んだことなんだろう? 優子は、もう長くないと聞いた時から、この日がくるのは覚悟していたよ……」


 すると白い制服を着た看護師に、うながされた。

「ご家族の方、中へどうぞ」


 中に入ると多くのモニターや機器が、優子がいるベットをかこんでいた。優子は酸素マスクをつけて、苦しそうに呼吸をしていた。


 私たちがベットに近寄ると、優子は薄目を開けて告げた。

「お父さん、お母さん……。先立つ親不孝を許して……」


 義母は、絞り出すような声で答えた。

「優子……」


 そして優子は、私に言った。

「あなた……。ビーフシチューを作ってあげられなくて、ごめんね……」

「優子……」


 すると再び優子は、私に言った。

「信吾、あなたに最後のお願いがあるの……」

「何? 優子?」


 私は、どんな願いでも叶えるつもりだった。


 優子は、言った。

「今度、生まれ変わったら、また私を見つけて。そして素敵なプロポーズをして。

 そしたら今度は、可愛い子供を産んであげるから……」


 私は、優子の言葉を繰り返すことしか、できなかった。

「うん。生まれ変わったら、また優子を見つける。そしてプロポーズをする。

 だからその時、俺の子供を産んでくれ……」

「ありがとう……」


 そして優子は笑顔を作り、つぶやいた。

「私の人生は、本当に幸せだった……」


 それが優子の、最後の言葉だった。


   ●


 里美に告白した次の日、私は優子の墓参りに、きていた。


 墓地の近くに駐車場が無かったため、マンションの近くのバス停からバスに乗り、墓地の近くのバス停で降りた。


 灰色の墓石が並ぶ墓地を進み、優子の墓前に、花と優子が好きだったミルクティーとチーズケーキを供えると私は、手を合わせた。

 優子のことは、まだ忘れていなかったが里美に、ひかれている自分が確かにいた。


 その時、不意に声をかけられた。

「やあ、信吾君じゃないか。どうしたんだい? 一周忌いっしゅうきはこの間、終わったばかりじゃないか?」

「あ、お義父さん……」


 そこには髪がほとんど白く短髪の、義父がいた。


 義父は墓前に花を供えて手を合わせた後、言った。

「まさか今日、君に会えるとは思ってもいなかった。これは、優子が引き合わせてくれたのかな?」

「はあ、そうかも知れません……」


 私は少し、バツが悪くなって視線をそらした。


 すると義父が、聞いてきた。

「本当に、どうしたんだい?」

「いえ、ちょっと優子に会いたくなって……」

「ふーん?」


 私は義父の視線を、またもそらした。


 すると義父は

「ははあ……」と、うなづいた。そして誘ってきた。

「どうだい、これから家にこないかい? 毎日、婆さんと二人きりで寂しいんだ。

 君なら、歓迎するよ」


 私は、少し渋った。

「はあ……。でも……」


 しかし義父は

「いいから、いいから」と、なかば強引に私を義父の家に連れて行った。

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