第十一話

 土曜日に、里美が観たいと言っていた恋愛映画を観に行った。

 結構、面白かった。ストーリーも良かったし、ラストも良かった。私は特に気が弱そうな主人公が、批判されるヒロインをかばうシーンが良いと思った。少し幸せな気分になったし恋愛映画に対して、食わず嫌いだったのかな? と思った。


 先週と同じ喫茶店に入ると里美は、遠くを見つめて映画のヒロインに、あこがれたように言った。

「良い映画でしたねー。私も、あんな風に幸せになりたいなー」


 私は、聞いてみた。

「椎名さんなら性格も良いし、もてるでしょう?」


 里美は、少しうつむいた後に答えた。

「私、男運が無いみたいですから……」


 そして聞いてきた。

「清水さんは、どうです? ああいうのにあこがれませんか?」


 私は、本音を答えた。

「去年、妻を亡くしてね。まだ忘れられないんだ。だから恋愛はまだ……」

「平井さんと神崎さんから聞きました。辛いですよね。でも、これからのことを考えても良いんじゃないかと思うんです」


 私は、その問いには答えられなかった。


 すると里美は、冗談まじりに言ってきた。

「私が恋人候補に、なっちゃおーかなー?」


 私は、突然、何を? と思ったが断われなかった。里美の明るさは、わずかだが確かに私の心を明るくしていたからだ。


 だから、私は答えた。

「そうですね、考えてみます……」


 すると里美は

「あははっ、清水さんって、本当に真面目な人なんですねー」と明るく笑った。


 私は、気づいた。これだ。この人生を楽しく生き、心の底から笑う笑顔に私は、ひかれていると。私は、この笑顔を、もっと見たいと思った。


 だから、昼食に誘った。

「これから、お昼を食べませんか? 近くにパスタのチェーン店が、あるんですが?」


 里美は、私が見たかった笑顔で答えた。

「はい、行きましょう!」


 それから喫茶店を出て車に乗り、店に移動した。ここも優子と、よくきた店だった。木製の壁とドアがあり、店内にも木目がきれいなテーブルと椅子があった。


「ここは、ナポリタンが美味しんですよ」と私が勧めると

「じゃあ、私もそれで」と答えたので、ナポリタンを二つ注文した。


 それがテーブルにくると、二人で食べながら話し込んだ。

「あ、本当に美味しいですね。トマトケチャップが良いですね。清水さん、良いお店を知っていますね」

「ありがとうございます。トマトケチャップとパスタの相性が良いんですよ」

「そうですね」


「それにしても、椎名さんのような人が同じ会社にいたとは、驚きです」

「私も、そう思いました。電話でも話しましたが、やっぱり部署が違うと、なかなか会う機会がありませんからねー」


 私は里美に、興味を持ち始めていた。

「休日は、何をしていますか?」

「やっぱり買い物とかですねー。あとたまに友人と、温泉に日帰りで行ったりしています。清水さんは何をしていますか?」

「音楽を聴いたり、DVDや録画した番組を観たり、小説を読んだりしています。

 妻が生きていた頃は、ドライブやカラオケに行ったりしていました」


 里美は、少し驚いた表情になった、

「清水さんがカラオケ? 意外ですねー」

「そうですか? 音楽を聴いていて、良いなあと思った曲は歌いたくなるんです。まあ、あまり上手くありませんけど」

「ドライブは、どこへ?」

「海や湖が多かったですね。山にはあまり、行きませんでした」

「あー、海、良いですよねー。いやされますよねー」


 それでデザートのケーキを食べ終えた時、私は誘ってみた。

「これから、カラオケに行きませんか?」

「え? これからですか? ええ、いいですけど……。カラオケなんて久しぶりです!」

「はい、私もです」


 私が行きつけのカラオケ店は、二階建ての建物で青い看板があった。

 一階のカウンターで受付を済ませ、飲み物も頼んだ。二階のカラオケ店特有の薄暗い個室に入ると四角い机の上にリモコンがあり、奥にモニターがあった。


 飲み物を飲みながら、私はB'zの『純情ACTION』など、里美は宇多田ヒカルの『Prisonar Of Love』などを歌った。

 私は久しぶりにカラオケにきたので他のアーティストの曲も歌いたくなり、歌った。


 すると

「清水さん、色んなアーティストの曲を知っているんですね。あ、この曲、なつかしいなあ」

「椎名さん、歌、上手いですねえ」と盛り上がり、一時間のつもりが延長して二時間、歌った。


 店を出ると、里美は満面の笑みで告げた。

「あー、こんなに歌ったの久しぶりかも。楽しかったです!」


 その笑顔を見ていると私は、私にはこの笑顔が必要かもしれない、求めているのかも知れないと思えた。


 だから、誘っていた。

「椎名さん、来週も会いませんか?」


 すると里美は少し、はにかみながら答えた。

「はい。いいですよ」


 私はうれしく思い、もっと里美と一緒にいたいと思ったが、今日はもう日が暮れかかっていたので別れることにした。

「今日は、そろそろ帰りましょうか?」

「はい、そうですね」


 私は里美を車に乗せると、待ち合わせ場所だったコンビニへ向かった。

 コンビニに着くと名残なごりおしいが、私は告げた。

「それじゃあ、また来週。おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」

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