第十話
水曜日。私と平井と大きなバッグを持った桐山は、二十階建ての大きなビルの前にいた。日本国内に約二百のスーパーを展開する、
私は、二人に声をかけた。
「準備はいいですか、行きますよ!」
私たちは少し緊張しながら、ビルに入り七階まで上がった。七階の会議室には白い横長の机が、縦に三つ横に四つ、口の字に並べられていた。
中にはすでに、商品購入検討課の
私は、あいさつをした。
「こんにちは、岩崎課長。本日も、よろしくお願いします」
すると少し、不安そうな表情で聞いてきた。
「おお、清水君。何でも今回の商品は、今までよりもちょっと高いんだって? 大丈夫かい?」
私は、力強く答えた。
「はい。高くても売れる自信があります。では早速ですが、弊社の桐山がプレゼンをさせていただきます」
「……という訳で、この『ゴールドスイーツ・シリーズ』は、特別な日に自分へのごほうびとして食べるちょっと高価な物、としてプレゼンをさせていただきました。
ありがとうございました」
大結スーパーの社員から、まばらな拍手が起こった。彼らと向かい合って座っている私の隣に戻ってきた桐山は、聞いてきた。
「はあ~、緊張した~。係長、どうでしたか?」
私は、笑顔で答えた。
「はい。上出来だと思います」
平井も、ほめた。
「良かったわよ、桐山君」
しかし桐山は、不安そうだった。
「でも係長、客先の反応がイマイチですね……」
「なあに、勝負はこれからですよ」と私は答え、平井に指示を出した。
「それではこれから皆さんに、ご試食をお願いしたいと思います。平井君、頼みます」
平井は
「はい」と返事をして、桐山が持ってきたバックからスイーツを取り出すと五個づつ、客先の社員に渡して歩いた。
それを見届けた後、私は告げた。
「さあ、どうぞ、試食をしてください。そして感想を、お聞かせください!」
少しすると社員からは
「美味しい!」
「何ていうか、自然な甘さがする」
「うまい!」等の声が上がった。
すると一人の女性社員が、聞いてきた。
「あの~、清水さん。このクリームプリンなんですけど、フタが透明で中が見えますよね。で、プリンの上にかかっているクリームがハートの形をしてて、とっても可愛いのでスマホで写真を撮ってもいいですか?
そしてそれをSNSにアップしてもいいですか?」
私は、よし、良い反応だと思い答えた。
「はい。もちろんです」
女性社員は、喜んだ。
「やったー! 黄色のプリンの上に白いハートのクリーム。これ、絶対SNS映えするわ。『いいね』がたくさん、もらえそう!」
私は、提案した。
「実は上にかかっているクリームの形はハート形だけでなく、星の形、葉っぱの形もあります。良かったら、どうぞ」
すると平井が、それらを女性社員の前に持って行った。
グレーの制服を着た元気な女性社員は
「うわー、星も葉っぱも可愛い! 私、買います! 毎日は無理だけど金曜日に仕事が終わったら、買います」と、うれしそうに夢中で写真を撮っていた。
その様子を見ていた細顔の菊岡係長は、丸顔の岩崎課長に耳打ちした。
「課長、
「うむ。入社一年目とはいえ、彼女が食いついた物は売れるというジンクスがあるからなあ……。よし、ちょっと、清水君」
「はい、何でしょうか?」
「取りあえず五種類のスイーツをそれぞれ百個、各スーパーに置いて様子を見たい。どうかな?」
「はい、ありがとうございます。では早速、契約書を作らせていただきます」
私は心の中で、よし! と、ガッツポーズをした。
本社ビルから出ると、私たちは喜び合った。
桐山は、平井に感謝した。
「昨日、平井さんに、重要なことから発表するというプレゼンのコツを教えてもらったので、一人でも上手くいったと思います。ありがとうございます」
「いえいえ。桐山君が、がんばったからですよ。ですよね、係長?」
「はい。二人とも良くやってくれました。あ、先に東京駅に行っててください」と私は立ち止まり、スマホを取り出して里美に電話をかけた。
「あ、清水係長、どうしました?」
「はい。プレゼンが上手くいって契約が取れました。椎名さんの功績も大きいと思います。ありがとうございます。
それにしてもプリンの上のクリームを色々な形にするとは……。あれも大きいと思います」
「実は、あのアイディアは私のなんです。今、SNSには可愛い食べ物の写真が、いっぱいアップされていますから」
私は、感心した。
「なるほど……。やっぱり椎名さんの功績は大きいですね」
里美は、遠慮がちに答えた。
「いえいえ、ちょっとしたアイディアですよ」
「そうですか……。あ、東京のお土産を買っていくので、楽しみにしていてください」と、私は満足して電話を切った。
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