第六話
七月一日、午前八時。
ベテランの男性課長が、あいさつをした。
「……という訳で、営業力の強化のために商品開発課から、この営業二課に三名の方が異動されてきました。一ヵ月間という短い間ですが、皆さん一緒に仕事をがんばってください」
そして異動してきた三名が、あいさつをした。
「
「
里美も元気よく、あいさつをした。
「皆さん、おはようございます! 椎名里美です。短い間ですが、がんばりたいと思います。
あ、私のことは気軽に、さっちゃんと呼んでくださいね!」と右手を高々と上げた。
「……」
課内は短い沈黙の後、まばらな拍手が起きた。
里美は
『あ、私、ひょっとして、やっちゃいました?』という表情で課長を見ると課長も
『うむ』と、うなづいた。『あっちゃー』という顔の里美。
しかし課長は、私を呼ぶと告げた。
「それじゃあ椎名君は、清水係長の一係で働いてもらうから。清水君、後はよろしく」
私は里美の方に近寄り、あいさつをした。
「営業二課一係の清水です。短い間ですが、よろしくお願いします」
すると里美は答えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そして里美を連れて自分に係に戻ると、告げた。
「早速だけど、このプレゼン用の資料をまとめてくれるかな? 分からないところは私か、
ちょっと平井さん、きてくれるかな?」
平井は
「はい」と返事をすると、私と里美のところへやってきた。
「こちらは平井さん。この係での仕事は結構、長いから大抵のことは分かるはずです。それじゃあ平井さん、椎名さんをよろしく頼みます」
平井は顔は面長で、髪は後ろでまとめていた。
「はい、分かりました」と返事をすると里美に、落ち着いた声であいさつをした。
「平井
里美も、あいさつを返した。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。あ、私のことは気軽に、さっちゃんと……」
「それじゃあ、椎名さん。早速、さっき係長からもらった資料の説明をするわね?」
「はい……」
里美は商品開発の意図を説明するために異動してきたのだが、社内の人材交流にもなるため、取りあえずは係になじむために平井と一緒に仕事をすることになった。
早速、平井の隣の席で仕事をしていた里美だが、どうしても気になることを平井に聞いてみた。
「あの、平井さん?」
平井は、仕事の手を休めずに聞いた。
「なあに、椎名さん?」
「清水さんて名前は、何て言うんですか?」
「
「歳はいくつなんですか?」
「今年、四十歳になったはずよ」
「もう一つ、聞きたいんですけど?」
「なあに?」
里美は声を、ひそめて聞いた。
「清水さんって、ひょっとして独身なんですか? 指輪をしていないんですけど」
里美は、さっき目ざとくチェックしていた。
平井は答えた。
「独身と言えば独身ね。三年前に隣の経理課の
「え? 奥さんが……!」
里美が予想以上に驚いたので、平井も言葉を失った。
少しの沈黙の後、里美は聞いた。
「で、今は、どうしているんですか?」
「取りあえず、まだ再婚してないわよ。誰かと付き合っているってウワサもないし……」
里美は、目を輝かせた。
「っていうことは、独身でしかも彼女もなし! やったー、超ラッキー!
それに顔は四角い感じですけど、目は大きくはっきりしていて髪は軽くパーマがかかっていて良いじゃないですか。身長は高めで物腰も柔らかそうだし、声は少し高いですけど……。うん、良いじゃないですか。かっこいいじゃないですか!」
「まあ、確かに清水さんの顔は、まあまあだと思うけど……。あの、ちょっと、椎名さん?!」と言う平井の声を無視して里美は、私に近づいてきた。
「清水さーん! ここが分からないんですけどー!」
すると隣の二係から神崎が、少し軽薄な笑みを浮かべ好奇心を丸出しでやってきた。神崎は、あごが細く髪の分け目は右だった。
「何、何、何か騒がしいけど、どうしたの? 平井ちゃん?」
「椎名さんに清水さんは、まだ再婚していないって言ったら……」
神崎が見ると、里美はこれでもかと言わんばかりに私に顔を近づけていた。私は、ちょっと引いていた。
神崎は、ニヤリと笑った。
「へえ、あの清水にねえ……」
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