第三話
すると友太は宣言した。
「はい、自己紹介、ありがとうございました。それでは、ここで一つ注意点があります。直己と佐野ちゃんは今、付き合ってるので恋愛の対象外にしてください。
それでは皆さん、ビールを持ってください。持ちましたね? では、カンパーイ!」
カンパイが終わり一口ビールを飲むと里美は早速、ロン毛で調子の良さそうな友太と、その隣にいる剛史に料理を取り分けた。この居酒屋は、和食を中心とした創作料理が味わえた。
友太が
「お、里美ちゃん、気が利くねえ。ありがとう」と喜ぶと里美は
「いえいえ、当然のことですぅ。でも会社でも、よく気が利くねって言われますぅ」と上目づかいで友太を見た。
佐野は、つい言ってしまった。
「え? 会社で里美さんが気を利かせているところなんて、見たこと無いんですけど?」
里美は、すかさず佐野に、ひじうちすると
「えー、何を言っているんでしょうね、佐野ちゃんは!」と答え再び顔を近づけ、低音の小声で
「余計なこと、言うなっつってんだろ!」と威圧した。
友太が聞いた。
「まあまあ、いいじゃない。それにしても里美ちゃん、可愛いのに彼氏とかいないの?」
里美が答えた。
「はい、そうなんですよぉ。今は、いないんですよぉ。ちょっと寂しいなぁ」
「それじゃあ今度、皆でバーベキューしない? あっちの方も気が合ってるみたいだし」
里美が、ふと横を見ると、剛史と晴菜が笑顔で会話をしていた。目鼻立ちが、はっきりしている晴菜と端正な顔立ちの剛史が見つめ合うさまは、なかなか絵になった。
数日後、皆でバーベキューをした時、里美が猛アタックして友太と付き合いだした。しかし友太の浮気が原因で別れた。
里美は不満ながらも、元気にあふれた声で吠えた。
「そうなのよー! それで何で浮気したのって問い詰めたら、お前より若くて可愛い子を見つけたからだって。何よー、女は三十を超えたら恋愛しちゃいけないのー?」
そしてビールをグビッと飲み、再びジョッキをテーブルに勢いよく置いた。麻理は、なるほど、それが今日はいつにも増して荒れている原因か、と思い告げた。
「まあまあ、今時、三十一歳なんてまだ若いし、まだまだこれからだって」
「いいよねー、麻理は。二十五歳で結婚して、今は二人の子持ち。上が女の子で、下が男の子で、うらやましいなー。私も早く結婚したいなあー」
「そう良いことばっかりじゃないわよ。働きながらの子育てって、やっぱり大変だし今は子供が四歳と一歳で一番、手がかかる時期なんだから」
「でもダンナは優しくて、家事も育児も手伝ってくれるんでしょう? いいなあー、うらやましいなあー」
麻理は、多少うんざりしながらも里美を見た。
顔の輪郭は卵型だが、あごが少しとがっている。髪は真ん中で分け、ちょうど肩にかかるくらいの長さ。目は丸い印象だ。身長は低めで、全体的に可愛く見える。今は不満を顔中で表現しているが。そんな里美を見て安心していた。
まあ、いいか、あの時に比べれば。麻理は、病室でうつろな目をして、ぼうぜんとしている里美を思い出した。あんな里美を見るくらいなら多少、親友の私にからむことくらいどうってことない、と思った。
そう、あの時に比べれば……。と、麻理の思考をさえぎる里美の声。
「えー、何、お兄さんたち男、二人で飲んでいるの? 寂しいー。こっちきて、あたしたちと一緒に飲もーよー?」
麻理を指差し、里美は告げた。
「あっちは既婚の子持ちだけど、私は花の独身でーす! でも年齢は、ヒ・ミ・ツ」
それを聞いた麻理の中で、何かが切れる音がした。麻理は隣のテーブルのグレーのスーツを着た、サラリーマンと思われる男二人にからんでいる里美の、後ろえりを右手で力強くつかまえると吠えた。
「私も、そんなに暇じゃないの! アパートまで送って行ってあげるから、もう帰るわよ、この酔っぱらい!」
里美は左右の手を空中で、ばたつかせて反論した。
「あー、失恋して傷ついている親友を一人にしちゃうんだ、この薄情者!
あー、昔は、こんなんじゃなかったのになー。女の友情なんて、こんなもんかー」
麻理は
「これだけ元気になれば充分でしょう? 薄情者でも何でもいいから帰るわよ!」と言い放つと左手を上げて店員に告げた。
「すみませーん、お勘定を、お願いしまーす」
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