第六話 瑠衣の隠された真実①
数日後、僕はあの家に呼ばれた。場所は稲荷神社の隣なので、スマホのGoogleマップを見ればすぐにわかった。一人で来いと言われたので、指示通りに一人で向かうことにした。呼び鈴を鳴らすとすぐに玄関のドアが開き、
「いらっしゃい」と彩芽さんが出てくる。そう、ここは稲荷神社の隣にある、彩芽さんの家である。神主である父親は現在お祓いの仕事に出かけていて留守にしているようである。
和室に座布団が二つ、僕と彩芽さんは対面で座る。湯呑みに入っている緑茶をすすると、彩芽さんは口を開いた。
「ヒナタくん、猫又は友好的な性格をしていて、優しい人間の家を住処にし、その人間と絆を深めようとしてくるの」彩芽さんが始めた話の冒頭であるが、これのどこが悪いのか全く理解ができなかった。……彩芽さんは続ける。
「絆が深まれば当然男女なら深い関係になっていく。深い関係になってしまうということは、肉体関係を結んでしまうということ」ここまで聞いて僕はなんとなく理解した。
「わかった、一度でも肉体関係を持ってしまったら生殖機能を奪われるってこと?」と先読みして訊いてみるが彩芽さんは首を横に振る。
「違うわ。猫又と肉体関係になっただけでは生殖機能は奪われない。さっきも言ったでしょ? 猫又は絆を深めようとしてくると。絆が深まると切っても切れない関係となってしまうの。長年連れ添った夫婦のようにね」
「それの何が悪いんだよ?」
「つまり猫又から絆を深められた人間は猫又以外を愛せなくなってしまうわ。そして猫又は妖怪、いくら性行為をしても人間の子を産むことはできない。これがどういうことなのか、わかるでしょう?」
他の女に目が行かなくなって、ずっと猫又と添い遂げてしまう。つまり、子孫を残せないまま人生を終える……。そういうことか。
「だから猫又に生殖機能を奪われてしまう前に、猫又から心を奪われる前に、わたし達退魔師が祓って退治するのよ」なるほどな。それで瑠衣ちゃんを殺そうとしたのか。納得がいった僕だったが、ふと疑問に思ったことがあったので質問してみることにする。
「瑠衣ちゃんは人間の子供を産むことはできないのか?」
「ヒナタくん、猫又は元が猫で人間ではないの。ただ妖怪の力で人間の姿に化けられるというだけで、遺伝子は猫のまま。人間と猫では交配は不可能」
猫っぽい行動をするとは思っていたけど、瑠衣ちゃんの遺伝子は猫――? いや待て、その前に、
「妖怪の遺伝子とか、どうしてそんなのわかるんだよ?」と疑問を投げかけてみると、
「わたしは今まで、猫又は妖怪と言っていたけど、それは表向きの話。実はね」と言って少し間を開ける彩芽さん。なんだろうと思い待っている僕に向かって放たれた言葉は衝撃的だった。
「猫又は突然変異で誕生してしまった、ペットのように情を移らせ恋人のように心を魅了し子孫繁栄の本能を封じる、人間を殺さずに滅亡させる生物兵器」
それを聞いた瞬間頭が真っ白になる僕。そんな僕に彩芽さんが追い討ちをかけるように続ける。
「あなたが飼っている猫又は人造生命体よ」
――人造生命体。その言葉に僕の聴力はまるで遠くから眺めるかのように離れていった。耳が拒否をし始めた。
僕の大切な瑠衣ちゃんが、得体の知れない生命体という事実を、知りたくなかったのだ。
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