第5話 不思議ちゃんの告白

 日曜日の朝、変な手紙が郵便ポストに届いていた。


 差出人不明の手紙を俺は見つめていた。


 そこに書かれていたのは俺に対する暴言がぎっちり書かれていた。


「俺の家を知っているのは示森ぐらいな気がするがな」


 そこに丁度チャイムが来客を知らせる。


「あ、優木君遊ぼうよ」


「良いところに来たな。聞かせて貰おうか」


「ん?」


 確かめる為に容疑者を家に招き入れる。示森は手紙が来ているかの確認か手紙に関する何かで訪ねてきたのだろう。

 リビングまで案内し、椅子に腰掛けるように促した。


 俺は台所に行き、お茶をいれ彼女の前に置き、俺もテーブルを挟んだ彼女の正面の椅子に腰掛けた。


「ありがとう〜」


「……」


「ひっさしぶり〜だね〜」


 元気そうに手をあげて挨拶してくる示森に鋭い視線を向けた。


「ど、どうしたの? そんな怖い顔して」


 俺は何も言わず手紙を示森の前に置く。


「え……何これ……酷い……どうしてこんな事ばっかり」


 示森は泣いているようだった。どうやら彼女が犯人ではないらしい。

 それは疑って悪かった。決めつけてしまったのは男として最低だな。

 にしても、誰だろうか。まあ、誰であるかは然程重要な事でないか。


「私、犯人見つけて謝らせる!」


「やめておけ。お前が嫌われるぞ。そもそも犯人探しをしたい訳ではない」


「そっか……優木君はそういう優しい人だったね」


 笑う彼女の瞳から涙が流れていく。彼女を疑ってしまった罪滅ぼしとして、俺は自分の涙を拭わない彼女の代わりに涙を手で拭ってやった。


「優木君は温かい。えへへ」


 示森は俺の腕を両手で掴む。顔を俺の腕に乗せて目を瞑った。


「ああ、落ち着くなあ。優木君の太い腕」


「お前はそんなに他人の起こった不幸に対して泣いてやれるのだな」


「私はそんなに良い人ではないよ。少なくとも優木君より」


 買い被りだな。


「お前を疑ってしまった俺は善人ではない。それより他人が言った悪口を自分の責任にできるようなやつに俺はなれないな」


「あはは、やっぱりバレてたか〜。全部私のせいにしてしまえば、優木君の苦痛が減るって思ったんだけど、そんなことになる訳ないよね。バカだったね」


「いや、俺は示森が仲間になってくれていると勝手に思っていた。だからお前に救われていた。でも、俺の問題をお前が背負うことはないだろう? 俺の為にお前が犠牲になっていたんだ。だから一度俺はお前と関わらないように拒絶したんだ」


「そっか、全てお見通しだった訳かあー。敵わないね、優木君にはさ」


「俺にそんなに構う理由まではわからないけどな」


「一年前、覚えてるかな? 私、こっそり残って本読んでる優木君に聞いたことあったんだ。なんで酷いこと言われたりされたりしても見逃してるの?って」


 そしたら、と示森は話を続ける。


「優木君、構うことが時間の無駄って言ったんだよ。俺は底辺な奴らを気にしないって。私惚れちゃった。本読んでるのもかっこよかったのに、もっと惚れちゃった。少なくとも私には出来ない事だった」


「……」

 

 俺は静かに彼女の話を聞く。


「残念ながら優木君と関わりたかったのに立場の弱い私が優木君と関わったら、私が狙われるかもだったからね。メンタルの弱かった私では不登校になりかねなかった」


「じゃあなぜ背負う?」


 俺がたずねると彼女は笑った。


「私を変えてくれた優木君には何かしらしてあげようと思った。もういじめ紛いなものはやめさせようと思ってる。その為に私は必死にコミュニケーションを学んだの」


「そうか、まーちゃんは俺の為に今まで頑張ってくれていたんだな」


「え? 今、まーちゃんって言った? え、ええええええ!? まーちゃん? え、えへへへへ」


 まーちゃんの話を聞いて態度を変える酷い奴なのは自覚している。でも、それが彼女の救いになるのであれば俺は躊躇わず彼女を愛称で呼ぶ。

 顔を緩ませてとても可愛く笑うまーちゃん。


「はは、そんなにニヤける事ではないだろう」


「へへ、好きな人にあだ名で呼ばれたら嬉しいに決まってるじゃん」


「今までキツく言って来てすまない。あだ名で言うことが俺に出来るまーちゃんへの

最大限の謝罪だ」


「う、嬉しいよっ! ゆうちゃん!!」


「あだ名で呼ぶだけで今までの態度を流してくれるなんて寛大だな」


「そんなことない! 私、ゆうちゃんが大好きだったから! 近くにいたかったの! 触れたかったの!」


 まーちゃんは椅子から立ち上がる。机を回って俺に抱きついた。俺は彼女の

頭を撫でる。誰であろうと俺はキツく接してきた。初めてこんな風に人に接したな。




※ ※ ※


 放課後、いつも通り教室に一人残って本を読んでいた。


 教室のドアがガラリと開く。俺はそちらに視線を向けると、茶髪の男子が一人立っていいた。

「おい、武藤。お前示森さんと一緒にいたよね。楽しそうに海にいたな」


 ああ、手紙を寄越したのはこいつだったか。示森さんから離れろとも書かれていたから、海で俺たちを見たとしか考えられなかったんだ。それにこいつは前から俺にちょっかいを出して来ていた奴でもあるな。


 男子がゆっくり歩いて俺の前に立ち胸ぐらを掴んだ瞬間に後ろの扉が開かれた。

「どう言うことかな? 真田君」


 真田と呼ばれた男子は示森の姿を見て、顔色を悪くし手も離した。


「私、あなたみたいな他人の事考えない人大嫌いだから」


 示森の顔からは怒りを感じた。それと呆れた感じ。それは他人に暴言やいじめをする人を人間と見ていない、そんな真剣な眼差しだった。


 真田は彼女の迫力に一言も発せない。開いた後扉から出て行き帰っていった。


「流石、人気者のまーちゃんだな」


「人気者になっても私はゆうちゃんの彼女には変わらないから!」


「ん? まだ付き合った覚えはないが?」


「え……ハグした時……確かに昔の告白はしたけど、愛の告白はしてなかった!! ガガーン!!」


 自分の口に手を当てて落ち込むまーちゃんは可愛かった。

 今頃こんな事言って俺ってずるいな。でも、それが今まで俺がメンタルを保てていた理由であるのも事実なのだ。


「じゃ、じゃあゆうちゃん、私と付き合ってください」


「な、なあ。やっぱり付き合うのは無しにしないか?」


「ええええ!? 何でえええ!?」


 まーちゃんはオーバー気味にリアクションする。


「あはは、嘘だ。俺からも宜しく頼む」


「もう! ゆうちゃん、意地悪になった?」


 怒られている感じがしない。彼女が可愛いからなのかもしれないな。


「そうかもな。まーちゃんが近くにいてくれる安心感があるからなのかもな」


 改めて俺たちはお互いにお辞儀をして、これからも仲良くしていくことを誓った。

 俺も今までのかたい考えを改め直そうと思っている。


「それを言われたら許したくなっちゃう」


 顔を赤らめた彼女は過去一番で可愛かった。

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不思議なあの子が強気なのか弱気なのか分からない 猫山華奈叶 @nekoyamakanato

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