【その3】職場で倒れたって…自業自得なんじゃないの?

 父が毎朝アパートに帰ってくる瞬間を狙い、私は登校する。1分たりとも、同じ部屋にいたくなかった。朝食はいつも菓子パン1個。父から毎月初日に渡される1万5,000円で、自分の朝食その他必要なものを調達している。もちろん、ハムエッグくらいの料理はできる。ただ、卵、ハム、油を買うだけの余裕がないのだ。月に1万5,000円の範囲で生活するのがこんなに大変なことを初めて知った。と同時に、中学3年の私に、その日暮らしを強いさせる父を恨んだ。自分アンタは毎晩、いろんな女とホテルでイチャイチャして満足してるくせして、私には月に1万5,000円。もしホテル代の余裕があるならば、私の臭いを消すスプレーを買ってほしかった。心から見損なっている。何故、あんな男の娘として生まれてきたんだろう。いっそのこと産まれなければ良かったのだ…。

 自分自身の存在も嫌になっていた。

 ********************************************************************

 担任が私の席に来て、今からすぐ病院へ行くように言われた。父がホテルの一室で倒れ、最寄りの大学病院へ搬送されたとのこと。そんなに衝撃は受けなかった。自業自得じゃね?その程度の受け止めだった。正直、私が行く必要があるのかとさえ思った。


 学校の昇降口で、見知らぬおばさんが待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る