【その2】あんたって、「サイテー」
母はあっという間に
当時中1の私が、母を失った悲しみに
父が変わり始めたのは、去年の秋頃だった。私は中2だった。
夕方大体同じ時間に帰宅はするが、私の夕飯を用意した後、外出するようになったのだ。どこに行ってるのか、分からなかった。ただ、帰宅するとすぐに風呂に入り、私の夕飯の用意を終えると、すぐに出掛けるようになった。
父が帰宅するのは決まって翌朝。私の登校と大体同じ時間。毎朝、父と入れ替わりで過ごすようになった。
父が一体何をやってるのか、判明するまでそれ程時間は掛からなかった。ある日の夜、宿題をしていたら、1台のスマホが着信音を鳴らした。父はこっそり、スマホを入手していたのだ。その日はたまたまアパートに忘れていったらしい。
機械的な着信音を鳴らし続けるスマホを、私は初めて手にした。「明美」という名前が表示されていた。私は「電話に出る」という表示をタップした。
「あ、あたしだけど、今日はどうすんの。もう部屋には着いてるんだけど」
ー あの…、私は
「えーーっ?!タケシさん、結婚してて子供もいるんだ。…ふーん、知らなかった。…じゃあいいわ」…プーッ、プーッ、プーッー…
…しばらく動けなかった。状況を理解するのに相当の時間を要した。父への疑惑は、続いて掛かってきた「みすず」からの電話で決定的になった。
「ちょっとタケちゃん、今ホテルの駐車場で待ってんだけど、時間過ぎてるわよ。早く来てちょうだい。あたしそんなに時間ないんだけ…」
…プーッ、プーッ、プーッー…
一方的に電話を切った。娘の存在を隠し、複数の女性と付き合っている模様だ…。
あの男…もはや父ではない。ママがいなくなって、寂しいのは私も一緒よ。なのに…いくらなんでも、いくらなんでも、ひどくない?
あんたって、「サイテー」
以降、父とのコミュニケーションを一切絶ったのだ。
(その3「職場で倒れたって…自業自得なんじゃないの?」へ続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます