死なないで、父さん。父さん、おとうさーーーん!

叙述トリック大好きギャル…満74歳現役女

【その1】 あなたの娘に生まれて…

 父のことが大嫌い、というか大嫌いに。ママが2年前に乳ガンでってしまった頃から。あいつとは今でも一緒に暮らしてるけど、話なんてしてない。いや、正確に言うと、父はきちんと私に話しかけている。私がシカト(無視)しているのだ。


 中学は休まずに通学している。ホントは勉強なんてしたくないけど、父がいる自宅アパートにいたくないから、仕方なく通学しているのだ。年が明ければ高校受験を迎える。でも受験はしない。中学を卒業したらすぐに上京するつもり。社会に出て働くのだ。父から離れ、自分の力で生きていくのだ。コロナ渦で不況が続いているが、一方で労働力は不足している。仕事を選んだりしなければ、働く先はいくらでもあるのだ。特に私みたいな女子は、歳を上手にごまかせば、働き口は無数にあると思う。本来なら「幸せ」になるべきだった私の人生を、自分の力で取り戻すのだ。


 決して裕福ではなかった。いや、違う。貧乏な家庭で生まれ育った。私が物心ついたとき、私と両親の3人は、築40年の木造アパートに住んでいた。父は会社員、母は清掃業をしていた。といえば普通なんだろうけど、父の仕事はトイレし尿のくみ取り、母の仕事はいわゆるラブホテルの清掃だった。

 仕事に優劣を付けるつもりはないが、両親の職業を知られたくなかった。小学校の授業で、親がどんな仕事しているか紹介し合うことが度々あった。「私のパパは銀行員です」とか、「ママは市役所で住民票を交付してます」って堂々と言えるクラスメイトがうらやましかった。私は、「父さんも母さんも会社に行ってます」、とだけ答え、それ以上は「分からない」ことにしていた。

 また、友達がウチに遊びに行きたいと言われたとき、断るのに苦労した。築40年のボロアパート。台所プラス2部屋(6畳と4畳半)だけの住み家、誰にも見られたくなかった。そして何よりも、父の身体に染み付いた「し尿」の臭いが、アパートの部屋に充満しているのを気付かれたくなかった。


 中学に進学すると、クラスメイトは塾通いや部活などでバラバラになり、私生活を介入される心配がなくなった。私は金が掛からないであろう卓球部に入った。相変わらず貧乏だったけど、何とか生活してこれた。そう、母のガンが見つかるまでは。


(その2、あんたって、「サイテー」へ続く)




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