第2話 それは目前に

モラン先生に連れてこられた俺は学園長室の前にいた




コンコン




「学園長モランです」


「入り給え」


「失礼します」




学園長室に入ると、真っ白い長いひげを生やした片目の老爺が椅子に座っていた。この老爺ウィリスは元A級冒険者で隻眼の魔弓使いと呼ばれ、名前の通り魔法と弓を駆使し活躍していた。その力は現役を退いた今となってもほとんど衰えていないという話だ。




「さて、モラン先生今日はどういった要件で?後ろの生徒も関係していることかい?」


「はい、実は先ほど校舎の裏側に見回りに行ったところ、数人の男子がもめ事を起こしていました。話を聞いたところ、ローマンという生徒をこのアリウスが虐めていたそうです。そしてそれを見たクリフ君達が止めに入ったそうですが、そのクリフ君にも暴行を加えたそうです。」


「それは本当かね」




鋭く睨みつけながら学園長が聞いてくる。




「俺は虐めてなんかいません!!」


「嘘をつけ!!被害者であるローマン、それに学年一位でのクリフに加え数人の優等生達もそう宣言しているんだ!」


「あいつらは優等生なんかじゃありません!複数で一人に暴行をふるう犯罪者です!」


「貴様!まだ言うか!」




「二人とも落ち着きなさい、アリウス君の言っていることが本当だったら取り返しのつかないことになります。しかし、私はクリフ君がそのようなことをするとは到底思えません。」


「しかし!!」


「まぁ、待ちたまえ、そこで明日もう一度事実確認をし話し合いを行ってから処罰を考えたいと思います。いいですね?」


「私は構いません」


「アリウス君はどうかね?」


「納得いかないですね、そもそも事実確認するなら今この場にあの場所にいた全員連れてきてから話をするべきだった、それを俺だけ連れてきて犯人扱いし、否定したらまた明日話し合いをするって二度手間じゃないですか、馬鹿なんですか?」


「貴様教師を馬鹿呼ばわりか!」


「間違ったことを言ったとは思わないですね、それに、ローマンはあの場で脅されてたんですよ?人が離れた瞬間何かされたら取り返しがつかないと思いますけど。そうなった場合二人は責任取れますか?」


「アリウス君の言いたいことも確かですが、それはアリウス君からしたらという話です。それにほかの子達は既にこの学園にいない可能性もありますし、私たちも暇ではありません。今から集めたところで碌に話し合いができないのが明白です。」


「生徒より大事なことが学園長や先生にあるとは思えないですけど」


「口が過ぎるぞ貴様」


「あなた達はもう子供ではありません、いつまでも大人に頼ってばかりではならないのです。これはあなたたちの事を思って言ってるんですよ」


「(ちっ、気持ちの悪いこと言いやがって)」


「とりあえず何言っても今日は解散です、また明日話し合いましょう」






そういわれ部屋を追い出された俺は納得のいかぬまま帰宅し、疲れからかすぐ眠りについた。






翌日いつもより遅めに教室に入った俺に向けられたのは軽蔑の眼差しの数々、何故かと思いながら進むとそこに見えたのは、クラスの中心で話しているクリフとその取り巻き、それとその横で包帯を巻いた痛々しい姿のローマンだった。


その彼を見た瞬間俺はクリフに詰め寄った。




「おい、クリフ!!お前ローマンに何をした!!」




胸倉を掴み怒鳴る俺に、女子は悲鳴をあげ取り巻きの男子は引き離そうとする。


頭に血が上ってる俺はそれを振りほどきさらに続ける




「怪我の事もそうだが一番はブレスレットだ!!あれ程大切にしていた奴をどこにやった!!」




ここでクリフが口を開く




「それは僕のセリフだ!昨日もローマン君を虐め!母親の形見であるブレスレットを持ち去ったのは君だろ!!」




それに続くように取り巻きの男子が言う




「そうだ!止めに入ったクリフ君にも暴力をふるっていたくせに!」


「そのせいでクリフ君の左手は今動かないんだよ!!」




意味の分からないことをいう男子を横目にクリフの左手を見ると包帯がまいてあった。




「デマ言ってんじゃねぇ、俺は左手をケガさせた覚えはねぇ!どうせ嘘だろ!」




そう言い左手を掴むと、クリフは悲鳴を上げながらのたうち回る


それを見た数人の男子が俺に殴りかかった




ドカッ ドカッ 




「これが嘘ついてるように見えるか!!やりすぎだろ!!」


「調子のってんじゃねーよ!!」




それに続くように周りは口々に俺へ暴言を吐く




「最低…」


「なんだあいつ…」


「クリフ君がかわいそう…」


「死ねよ…」




そして今まで静観していた幼馴染二人が口を開いた




「やめないかアリウス!!これ以上やるなら私が許さない!!」


「そうだよアリウス!!いつもの優しいアリウスはどうしちゃったの!!」




幼馴染二人の言葉に息苦しくなる




「お前らも俺ではなくこいつ等の話を信じるんだな…」




振り絞りながらそう口にした俺に二人は答える。




「いや、そういうわけではないが…」


「別にアリウスを信じてないってわけじゃ…」




気まずそうに答えるがそれを周りは許さない。




「二人ともそんな奴の事信じるんだ」


「そういえば昨日一緒に帰ってたよね」


「もしかしたら二人も何か知ってるんじゃない?」


「それって共犯ってこと??」




共犯を疑われた二人は必死に弁解する




「違う私たちはそんなことはしていない!!」


「そうだよ!!それにアリウスは学校出る前に分かれたし…」




ソフィのその言葉にクリフは左手を抑えながら答える。




「彼女達の言っていることはホントだあの時いなかった、それに彼女たちはそんなことする子達じゃないのは皆が一番わかってるだろ!」




痛みを抑えながらふたりを庇うクリフ、その姿に周りは尊敬の眼差しを向けながら賛同する。




「クリフ君カッコイイ」


「確かにあの二人がそんなことするわけないよな」


「疑っちゃってごめんね」




幼馴染二人は自分へ矛先が向かなくなったことに安堵していた。


そして今まで静観していたローマンがおびえながら口を開いた。




「もうやめてアリウス君僕のブレスレットを返して…」






その言葉が決定的だった。


クリフとアリウス二人の言い争いは食い違っている。片やアリウスが犯人、片やクリフが犯人。


いくらクリフの言葉を信じていようとそれは加害者同士の言い争いでしかない。そこに被害者であるローマンがアリウスを犯人と証言したのだ。この時点でアリウスに味方する人は一人もいなくなったのである。




「やっぱりそうなんじゃねーか…」


「最低だなあいつ…」


「最低…」


「この二人の仇取ってやろうぜ!!」


「そうだそうだ!!ボコボコにしてやろう!!」




大義名分をへた男子たちはアリウスを取り囲み袋叩きにする、いくらアリウスが他の男子より強いと言えど数には勝てなかった。




そして男子たちにボロボロにされたアリウスを待っていたのは、今まで一緒に過ごしてきた幼馴染二人からの心無い言葉だった。




「アレウスあんた自分がなにしたかわかってるの!!ほんと最低!!」




「アレウス君、君がそんな人だとは思わなかったよ…これ以上関わらないでくれるかな」




呼び名まで変わり蔑むような目を向けながらそう吐き捨てる二人。


意気消沈しているところに、やってきたモラン先生に連れられて教室を後にした。










「アリウス君やっぱり君が犯人だったんですね」


「違います」




学園長の言葉に満身創痍ながらも俺は否定する




「まだ、しらばっくれるか!!このクソガキが!!」


「クラスの皆さんに聞きましたが、あなたが犯人だと口をそろえて言っていましたよ。」




「違います」




ふたりの言葉に耳を貸さない俺にしびれを切らし手を出そうとするモラン先生、また殴られるのかと思ったその時学園長室の扉が開き二人の男女が入ってきた。


そう、俺の両親である。




父親であるアルフレッドはこの国では珍しい俺と同じ黒髪黒目、短髪で平凡な顔つきだが正義感が強く逞しい体つきをしている。




母親であるレーラも黒髪黒目でその綺麗な長い黒髪に容姿端麗でいつも笑顔を絶やさないため近所でもとても人気な女性だ。俺は母親にと言われ子供の時は女子に間違われたりもした。




二人は元々冒険者として一緒に活動していたが、結婚を機に冒険者をやめこの町に住むようになった。二人は冒険者としての知識を生かし道具屋を始め、今ではそこそこ名の知れたお店にまでして見せた。




二人が入ってくると学園長はことのあらましを話し始めた。




学園長の話を聞いている二人はわなわなと震えだし、話が終わると母はその場にへたり込み泣き出した。




「俺はやってない、全部嘘だ」




もしかしたら二人なら信じてくれるかもしれない、そう期待していたがその思いは儚く散る。




父は俺を見るや殴りかかり俺は吹き飛ばされる。




「お前は何やってるんだ!!」




元冒険者ということもあってその力はつよい。痛みを抑えながら俺は言う。




「俺はやってない!」




その言葉に父はさらに激怒、俺に馬乗りになり殴り続ける。






俺は何を言われても何度殴られても否定する、もしかしたら許されるかもしれない、これ以上ひどくなることはないかもしれない。


誰にも信じてもらえないのはわかった、認められないのはわかった。だから俺だけは俺を認めよう。








俺は否定した、意識がなくなるその時まで。




















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