学校一天才でクールな彼女は二人っきりのときだけ甘えん坊

でずな

甘えん坊さん



 人には憧れの人物がいる。人によってはスポーツ選手。人によっては歴史上の偉大な人物。

 だが、この学校に通うほとんどの生徒はれいという一人の天才に憧れている。私も高校入学式の時、彼女のスピーチを聞いて心を打たれた。

 こんな人になりたい。

 この人と喋ってみたい。 

 その純粋な一心で、怜がいつも一人残っている理科準備室へ足を踏み入れた時から私の運命の歯車が動き出したと思ってる。

 

 いくら天才だからといって、ロボットじゃない。人間1つや2つ。いいや、何十個と弱い部分を持っているもの。私が理科準備室の扉を開けたとき、怜の唇が私の唇に当たった。意味がわからず、とりあえず謝ろうと地面に倒れ込んでいた彼女に手を差し伸べたとき私は気づいた。それは、明らかに彼女の知能指数が下がっているということ! 喋らずとも、私の寝起きのようなおバカさんの顔をしていたのですぐにわかった。

 それから色々……本当に色々あり、怜は何故か私に惚れ込み付き合うことになった。  

 彼女になるのは初めて。もちろん付き合うこと自体初めてだった私は、ドキドキしていたのだが怜は私と二人っきりのときだけ甘えん坊になる。頭を撫でると嬉しそうに微笑んで、抱きつくと嬉しそうに抱き返してくる。その様は、私が心を打たれたクールで天才である彼女とは真逆の姿だった。でもこれが私の彼女。表と裏のギャップもこれまた堪らない。


 私の記憶の中で鮮明に覚えているのは、初めてのお部屋デート。私の家で家族がいる中、甘えん坊になったり、クールキャラになったりと忙しない様子が面白かった。

 今じゃもうそんな姿、見せてくれない。


「なんでそんなに私のことジロジロ見るの……?」


「いやぁ〜ちょっと寂しいなって思って」


「そっか。私も来年からちーちゃんと会えなくなって思うと寂しいな」


 嫌だから現実から目を背けてた。でももうそんなことしてる暇はない。怜は今年で3年生。来年から県外の大学へ行ってしまう。


「あれ? 本当に寂しいの? 大丈夫。テレビ電話でいつでも顔を見ながら喋れるし、休みの日はこっちに遊びに来るよ」


 なんで私は普段、甘えん坊でどうしようもない人に抱き寄せられて頭を撫でられてるんだろう? この役目は私のはず。はずなんだけど、これ落ち着く……。


「んふふ。こうやられるの、結構いいでしょ? これからもちーちゃんにしてあげよっか?」


「なんか立場逆転してて屈辱的だからいい!」


「そっかぁ〜。また撫で撫でしてほしかったら言ってね?」


「もうされることなんてないからそんなこと言われても意味ないでぇ〜す」


「ふーん。じゃあ私のこと撫で撫でして!」


「はいはい……。全くしょうがないんだから」


 時間が進むのは早い。

 

「れ、れぇ〜い。もう行っちゃうの? まだ大丈夫なんじゃない?」


「いやぁ〜もうそろそろで、電車の時間だからもうすぐでないとまにあわなくなっちゃうんだよね。……だからそろそろ腕にしがみつくの、終わりにしない?」


「…………そろそろってことはまだ大丈夫なんじゃん」


「なんかいつものちーちゃんと違うね」


 ズ言い当てられてドキッとした。


「そりゃあ、付き合ってる人と明日から会えなくなるんだから変わるよ! 怜は寂しくないの?」


「もちろん寂しいよ? なんかこんな感じの話、ちょっと前にもしなかったっけ?」


「してる」


「覚えててその質問……。ちーちゃんはどうにかして電車に乗り損ねさせようとしてるね?」


 またもやドキッとした。

 こんなに心の内を言い当てられるなんてそうそうない。私ってそんなに顔に出るんだ。


「怜は行くんでしょ?」


「行く」


 ちょっとでも「行かない」という言葉を期待した私がバカだった。怜からしたら、私なんて迷惑な女なんだろうな……。


「手、貸して?」

 

 怜は有無を言わさず、私の手首を掴んできた。

 無理やり伸ばした手のひらに当たるのは髪の毛。私の手は怜の頭の上に乗っけられた。


「私はね。いつもこうやって撫でてくれて、嬉しかったの。……私はね。普段とは違う姿を受け入れてくれるちーちゃんのことが好きなの。……私はね。ちーちゃんのことが大好きなの」


「私も怜のこと大好き」


「へへ。知ってる。だから、ね。私も本当は離れたくないけど行かないといけないの。わかってくれる?」


「ん」


「いい子いい子」


 また私があなたを撫でられる立場になるなんて思わなかった。あのときは屈辱的だと思ってたけど、今はその真逆。私の心が幸せで溢れそう。


 少し頭を撫で、行ってしまった。


 一人になってからというもの、私は悲しさに明け暮れていた。

 転機が来たのはどの大学へ進学するか、という進路選択。担任に提案された大学の名前を聞いた時だった。その名前は怜が通ってる難関校。

 たまたま勉強したい内容と合致する大学だったので、即決した。私は怜と同じところに行きたいという気持ちよりも、人生最大の挑戦をする、という気持ちで受験勉強に勤しんだ。

 でも、心の支えになったのは他でもない怜の存在。


 春。私がこれから生活する家には怜がいる。

 深呼吸し、合鍵で扉を開けた。

 まだ朝早いから寝ていると思ってたけど、どうやら違ったらしい。


「待ってた」


「うん」


 怜は何も言わず、抱きついてきた。ギュッと私のことを噛みしめるように締める腕に、思わず泣きそうになる。頭を撫でてほしそうにぐりぐりしてみたり、耳元で「ん〜ん」って甘い声を出してみたり。こんなに甘えん坊さんになってるの、初めて見た。

 

「心配かけちゃったね」 


「ん」


「これからは毎日いつでも甘えていいから遠慮なんてしないで」


「んまぁ〜」


 いきなりキスされた。それも大人のキス。

 

「んへへ。甘えてもいいんでしょ?」


「もちろん」


 好きな人と一緒にいる。

 ただそれだけで幸せなことだと、一人だった時によくわかった。だからこれからは怜と二人で色んな初めてや、色んな日常を楽しもうと思う。もちろん、大学生なので学業の方も怠らないように。

 


 

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学校一天才でクールな彼女は二人っきりのときだけ甘えん坊 でずな @Dezuna

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