第39話 我慢の限界
「せい君、お部屋行こっか」
夜。
今日も神岡は俺の部屋にお泊りである。
ただ、昨日一日乗り切ったことが自信になったのか、今日は最初ほどの不安はなく。
「ああ、寝るだけだからな」
堂々とそう言った。
「ふーん、せい君なんか今日は雰囲気違うね」
「まあ、よく考えたら隣で人が寝てるくらいで一喜一憂してたんじゃきりがないからな。別に寝るだけならいつでも寝てやる」
とか、強がっていた。
もちろん嘘である。
昨日よりは冷静だというだけで、内心はドキドキしてることに変わりない。
ただ、こうやって強がっていないと心が負けそうになる。
だから虚勢を張る。
そして裏目に出る。
「せい君、なんか女慣れしてる。ヤダ、せい君はそんなんじゃなかったのに」
「い、いや女慣れもなにもお前が毎日いるせいで」
「ヤダヤダ、ずっとドキドキワクワク新婚さん気分じゃないとヤダ。せい君を殺して私はお墓参りに行く!」
「待て、それは俺が殺されただけじゃねえか! ていうか殺した奴の墓参りってどんなメンタルだよお前」
「いいの、静かなせい君のお墓を見ながら、せい君との思い出を思い出してそのまま私はお供え物して帰るの」
「だからただの墓参りだろそれは。いいからその鉛筆をこっちに向けるな」
しっかり削られた鉛筆は刺さると痛いんだと、刺されたことがなくともわかる。
鈍く光る鉛が俺を向くと、委縮する。
「せい君、それじゃ寝る時はちゃんと手、つないでくれる?」
「あ、ああ。それくらいなら」
「キスもだよ? あと、空いてる方の手で髪撫でて」
「ま、まあ撫でるくらいなら」
「ちゃんとドキドキしないと、ダメだよ? わかった?」
「……わかった」
ていうかそんな状況でドキドキしない方が無理がある。
想像しただけでたちそうだ。
そのままベッドへ。
甘い香りと共に、ぬくもりがあるベッドで神岡と並んで天井を見上げる。
部屋の灯りが暗くなる。
すると、横にいる神岡の気配をより強く、そして近く感じる。
「せい君、手握って」
「あ、ああ」
「せい君、髪も撫でて」
「お、おお」
「せい君、ちゅうだよ?」
「……」
手を握って、もう一方の手で彼女の髪をすくように指を通し、そして向かい合う。
もうこれ、完全にアウトなやつじゃん。
唇に吸い込まれそうになる。
「……え、ええと、寝ない?」
「キスしてくれないと寝れない。いやなの?」
「……したら寝るのか?」
「うん。してくれたらぐっすり寝れる」
「……わかった」
なし崩し的にキスをする。
その感触は、何回しても慣れない。
体の一部がしゃきっと元気になっていく。
頭の中はぼんやりしていく。
溶けるように、意識が遠くなる。
自然と、神岡の手を握る力が強くなる。
「……せい君、まだムラムラしないの?」
「し、してるけど……でも」
「いいよ? 私、今日は大丈夫な日、だから」
「な、なにが大丈夫なのかは知らんが……」
「ね、しない? 気持ちいいよ、きっと?」
誘惑が押し寄せてくる。
ただ、ここで手を出したら今まで散々頑張ってきたことがすべてパーになると、頭では理解している。
それでも、理解も理性も本能には追い付かない。
気が付けば俺の手は、神岡の胸に伸びていた。
「あ……」
触れると、感じたことのない柔らかな感触が掌いっぱいに広がる。
少しだけ力を籠めると、神岡が「ん」と我慢するような声を発する。
「ご、ごめん」
「んーん、大丈夫。せい君、続けて?」
「……いいの?」
「離したらダメ。ね、こっちも触って?」
「え」
胸からそっと手を退けられると、その手は神岡の下半身へ連れていかれた。
もぞっ、と下着の中に手を突っ込まれると、少しざらりとした感触があって、その向こうであたたかい湿り気を感じる。
「ね、もうムンムンしてる。せい君のせいだよ?」
「こ、これは……」
「ここ、気持ちいいよ? ね、しよ?」
「……」
神岡の下半身に触れた後のことは正直言って、よく覚えていなかった。
あまりの興奮と、その後の快感をなんとなく記憶しているが、無我夢中というかもはや動物的に、腰を振って必死になっていたことだけ覚えていて。
なのでここから先、ここで語らせてもらう内容はすべて事後になって振り返った内容になるけど。
神岡を抱いた。
抱いてしまった。
喘ぐ彼女の顔に、何度も夢中でキスをした。
綺麗な胸に何度もかぶりついた。
彼女のうねりを感じるべく、必死に動きまくった。
そして、果てた。
果てて、すっきりしてしばらく経ったのが今。
横で幸せそうな笑みを浮かべて俺を見る神岡と目が合った時、ようやく我に返った。
やっちゃった。
もう、我慢なんてできなかった。
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