第40話 爛れていく

「せーい君っ、ふふっ」


 朝。

 同じ布団で、裸のまま神岡と迎えた朝。


 神岡の機嫌はよかった。

 いや、もうすることをしてしまった今、神岡とよそよそしく呼ぶことは許されないだろう。


「紫苑、お、おはよう」

「せい君、昨日はいっぱいしちゃったね」

「う、うん。まあ、初めてだったもんで」

「私もだよ? お互い、大人になっちゃったね」

「ま、まあ」


 なんだろう、エッチをすると愛着がわくとか情が芽生えるとかって話をきいたことがあるんだけど。

 もちろんそういう気持ちもあるんだけど。


 なぜか不安が勝っていた。

 この先、紫苑が俺の手に負えなくなるんじゃないかという第六感が働いて、朝から冷や汗が止まらない。


 でも、これはあくまで俺の勝手な予感。

 紫苑はいつになく上機嫌で、俺を見てずっとニコニコしている。


「せい君、すっごくよかったよ」

「そ、そうなの? 俺、よくわかんなくて」

「んーん、優しく触ってくれるし。こうやって一緒に目が覚めるの、すごく好き」

「う、うん」

「せい君は? 気持ちよかった?」

「そ、そりゃあ、まあ」

「えへへ、よかった。これから毎日いっぱいしようね」

「……うん」


 笑顔が可愛い。

 そして経験を経たせいか、昨日までより紫苑が色っぽい。

 あどけない少女から、艶やかな女性という雰囲気に変わったような、そんな感じがする。


「せい君、朝だけどもうちょっと時間あるよ?」

「あ、いや、今からっていうのはちょっと」

「ダメ? じゃあ私がしてあげる」

「え、いや、大丈夫だって、あ、あっ!」


 パクっ。

 そして俺は勝手に気持ちよくなっていた。


 もう、何をする気も怒らない虚脱感。

 何とも言えない充実感。

 満たされる欲求と、更に湧き上がる衝動。


 そんなものが頭の中をぐるぐると。

 今日はこんなだから学校に行って気持ちを切り替えようと思ったんだけど。

 朝ごはんを食べてる時も、学校に向かってる途中も、生徒会室についてからだって頭の中はピンク色。


 昨日や今朝の快感が忘れられず、ずっとその時のことを回想してはムラムラして、そして必死に邪念を振りはらうという作業を繰り返し。


 何をしたかも覚えていないまま、昼になってしまった。


「せい君、仕事はかどってる?」

「え、ああ、いや」


 ぼーっとしているところで、しばらく静かだった紫苑に声を掛けられて我に返る。


「今日のせい君、ずっとぼーっとしてる。今朝、しちゃったから力入らない?」

「い、いや、どうだろ。よくわかんない」

「でも、時間が経ったら元気になるよね? ここでする?」

「そ、それはまずい。神聖な生徒会室でそんなことは」

「じゃあ、帰ってしよ? せい君の、ほしい」

「……うむ」


 思考が追い付かない。

 もう、一回やっちゃったから二回も三回も一緒だろっていう最低な発想もあった。

 そして、なにより二回目三回目を期待していた。


 だから素直に資料を片付けて、俺は紫苑と一緒に家に戻ることに。

 仕事なんて、何もできなかった。



「せい君、まだ明るいね」

「う、うん」


 休日の真昼間から、俺は紫苑と部屋にいた。

 で、向かい合ってドキドキしている。


「せい君、今日は一緒にお風呂入らない?」

「ふ、風呂? で、でも」

「お風呂でしてみたいなあ。なんか気持ちよさそうだし」


 風呂でしてみる。

 その言葉に、俺の頭の中は風呂場で紫苑とくんずほぐれつな状況を思い描く。


 当然、むらっとする。


「風呂で……」

「あれ、せい君固くなってる? えへへ、じゃあこのままお風呂行こ?」

「う、うん」


 流されるまま。

 俺は風呂場へ移動する。


 そして、固くなった股間を隠しながら風呂へ入るとすぐに紫苑も入ってきて。


 握られる。


「あっ」

「ふふっ、いい感じ。お風呂だと、なんか濡れててぬるぬるするね」

「あ、や、やめっ、あ、あっ!」


 快感の虜だった。

 もう、昨日までの強固な意志はどこにいったんだと自らツッコんで自虐したくなるほど、俺は快感に流されていた。


 そして、果てる。

 果てて、それでもまだ、元気だった。


「せい君、すっごく元気。ね、ムラムラしてたら仕事がはかどらないかもだから、おさまるまでいっぱいしよ?」

「い、いや、あんまりやりすぎたら」

「でも、今日も全然集中できてなかったよね? それって、やっぱりムラムラするからじゃない? 私がいっぱいすっきりさせてあげるから、どうぞ」

「……うん」


 無防備に差し出された紫苑の体に、俺は遠慮なく突っ込む。

 また、昨日の夜の快感が蘇る。

 風呂場で、ということもあったせいか、昨日よりもさらに興奮していて。


 でも、楽しむ余裕なんてないまま勝手に腰が動いて。


 気が付けば風呂場で何度も。

 もう、俺はサルみたいに。

 紫苑との行為に酔いしれた。


「……もう、ダメだ」

「あはは、せい君いっぱいしたね。もう、さすがに元気ないね」

「ね、眠い。もう、寝そう」

「そだね。じゃあお風呂で体流したら一緒に寝よっか。夜、起きてから仕事したらいいし」

「うん、そう、する……」


 休日の昼間は勉強して、朝まで勉強して、食事も忘れて勉強して。


 そんな俺のルーティンは崩れ去った。


 休日は朝から気持ちよくなって、昼間もずっとエッチして、食事も忘れてエッチして。

 やがてやりつくしたら寝る。

 もう、最低に爛れた生活に突入していた。

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