第13話

 大家さんのおばさんとおしゃべりして、アパートに帰り、ドアを開けると玄関にオヤジが立っていた。

「なんだ、来ていたんだ。」

素っ気なく言うと、オヤジはニヤニヤしている。

「どうだ?俺が言ったとおりだろう?あの人、いい人だろうが。」

「ん?大家さんのおばさんのこと?」

「ああ、色んな意味で飾りっ気のない人だな。」

「どういうことさ?」

「化粧っけがないのもいいが、物言いも優しくて自然体だから、お前とあうと思うな。」

「そうかね?」

「あの人との付き合いは大事にしておけよ。いい人のまわりには、これまたいい人がよってくるからな。」

「どうして、そこまでかまうのさ。」

「その……お前に言っていいものかどうか……」

 言い淀むオヤジの様子にピンときた。

「オヤジ、あんた、お母さんの様子、見に行ってたんだろう?」

オヤジは黙っている。

「図星だろう。私に気を遣わなくてもいいさ。それで、どうだったのさ。」

まだ、オヤジは口を開かない。

「まったく……オヤジ、大人になれよ。お母さんに彼氏いるんだろ。」

「お前、知ってたのか。」

オヤジは目を丸くしている。

「三十代の娘つかまえて、何寝ぼけたことを言ってんのさ。あの人、れっきとした独身だよ。いいじゃんか。」

「お前、本当にいいのか?」

「別に……その方がいいんじゃない?老後べったりされてもさ、困るじゃん。」

オヤジは真面目な顔で、

「お前には俺がついているからな。」

と言う。

「よく言うよ。自分が寂しいんじゃないか。でもしょうがないね。幽霊だったらやけ酒も飲めないね。かわいそうに。」

と笑ってやった。ジメジメした雰囲気になったらたまらない。

「いいか、オヤジ。『今』を大事にしなくちゃいけなかったんだよ。そりゃね、オヤジだって仕事、大変だったと思うけどさ、もっと、お母さんのこと、大事したらよかったんだよ。」

 



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