第12話
せっかく、好きなだけ美沙の顔を見に来いと言ってやったのに、オヤジが毎日、化けて出てくるかというと、そうでもない。立て続けにあらわれたり、一週間以上も音沙汰がなかったり……
「オヤジときたら、まったく、勝手なやつだよ。どうやら、幽霊になっても性根は変わらないようだ。」
とつぶやいてみるが、今日もお出ましはないようだ。
美沙は四月生まれ。夏に向かって育つ子は楽だよって聞いたけど、どうだろうか。確かに、洗濯物はよく乾くが、大人と違って、着替えの回数も多いし、行水もさせなければならないし、忙しいのは相変わらずだ。それでも、美沙の首がすわってきたので、抱っこをするのが怖くなくなってきた。
母は、赤ん坊の私を半年、外に出さなかったと言っていたが、狭いアパートで、美沙と二人でストレスがたまる。午前中、美沙のためのお散歩だと自分自身に言い訳をして、美沙を抱っこバンドで前に抱き、近所のディスカウントストアに買いものに行く。ネットで大抵の物が手に入る世の中だが、対面でものを買うのが、こんなに楽しいとは驚きだ。
美沙の紙オムツが安かったのでそれを買うことにして、レジに並んでいると、
「まあ、かわいらしい。お子さん、大きくなったわねえ。」
と、声がした。振り返ると、大家さんのおばさんが立っている。
「どうも。」
と挨拶をして、一緒に帰る羽目になってしまった。町内会の話しがでるかとドキドキしたが、おばさんは自分の子育てを懐かしそうに振り返っている。
「思い出すわ。買い物が大変で……昔は近くにお店がなくてね。私は一週間に一回、食材を届けてもらっていたけど、何かしら買い忘れがあって……赤ん坊を置いて自転車で買い物に行ったけど、気が気じゃなくて……帰ったら、火がついたみたいに泣いて怒ってたり……連れて歩いたら赤ん坊が荷物でしょう。ほんと、大変でしょう。それまで当たり前に出来ていたことが、簡単にできなくなるんだものね。」
思わず、うなずきながら笑ってしまった。
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