第11話

 不思議なことに、私がツンツンとした物言いをしても、オヤジはお構いなしだ。死に別れたのは高校生の時だから、かれこれ十年以上たっている。子供のころ、オヤジは留守がちだった。よくよく考えてみれば、今が父と娘の時間ということだろうか。

 幽霊のオヤジが懸命にあやすが、美沙は泣き止まない。私は思わず吹き出した。

「オヤジ、もういいよ。美沙はお腹がへると人格変わるんだよ。早めにミルク、調乳しとけばよかったんだけどさ。なかなか段取りよくできないんだよ。」

 哺乳瓶でミルクを飲ませはじめると、美沙は幸せそうに小さな足をトターントターンと動かす。

「お前が赤ちゃんの時と一緒だ……言っただろう。母乳だけが母親の証じゃない。お前に抱っこされてミルクを飲んで……美沙はこんなに幸せそうに……」

横でオヤジが目を真っ赤にしている。

「まったく、仕方ないね。」

と言いつつ、私も目の奥が熱くなっている。

「いつまでこっちに来られるのか知らないけどさ、好きなだけ美沙に会いに来なよ。」



 オヤジが化けて出てくるようになって一ヶ月が過ぎた。美沙は三ヶ月。まるまるとした「かわいい赤ちゃん」に成長してくれた。


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