第11話
不思議なことに、私がツンツンとした物言いをしても、オヤジはお構いなしだ。死に別れたのは高校生の時だから、かれこれ十年以上たっている。子供のころ、オヤジは留守がちだった。よくよく考えてみれば、今が父と娘の時間ということだろうか。
幽霊のオヤジが懸命にあやすが、美沙は泣き止まない。私は思わず吹き出した。
「オヤジ、もういいよ。美沙はお腹がへると人格変わるんだよ。早めにミルク、調乳しとけばよかったんだけどさ。なかなか段取りよくできないんだよ。」
哺乳瓶でミルクを飲ませはじめると、美沙は幸せそうに小さな足をトターントターンと動かす。
「お前が赤ちゃんの時と一緒だ……言っただろう。母乳だけが母親の証じゃない。お前に抱っこされてミルクを飲んで……美沙はこんなに幸せそうに……」
横でオヤジが目を真っ赤にしている。
「まったく、仕方ないね。」
と言いつつ、私も目の奥が熱くなっている。
「いつまでこっちに来られるのか知らないけどさ、好きなだけ美沙に会いに来なよ。」
オヤジが化けて出てくるようになって一ヶ月が過ぎた。美沙は三ヶ月。まるまるとした「かわいい赤ちゃん」に成長してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます