第10話
ピンポーン!インターホンがなった。オヤジにとっては救いの神だろう。
「おっ!お客様!」
オヤジは嬉しそうだ。誰だろう?築二十年のアパートだが、幸い、カメラ付きのインターホンで、相手の顔を見ることができる。訪問者はアパートの向かいの家に住んでいる大家さんのおばさんだ。
大家さんといっても、普段は接点がない。アパートの管理は業者がやっているからだ。ただ、前に一度うちに来たことがある。町内会へのお誘いだった。その時は共働き夫婦であることを理由に、丁重にお断りしたのだったが。
また、町内会のことだろうか。それなら今回も断ろう。美沙を理由にすればいい。心の準備をして玄関のドアを開けた。
「突然、おじゃましてすみません。今、少しお話しできますか?」
柔らかい物腰で大家さんが口を開く。
「前にもお誘いさせていただきましたけど、どうでしょう、町内会に若い方が入っていただけないかと思いましてね。アパートの部屋をまわらせていただいているんですよ。」
「あのう、娘がまだ二ヶ月とちょっとで……夫の帰りも遅くて……できるとは思えないんです。すみません。」
「まあ、知らなくてごめんなさい。二ヶ月ちょっとだったら、大変やね。親御さんは?近くにおられるの?」
「ちょっと遠くて……」
「今は無理かしらね。また考えてくださいね。産後のお体、お大事にね。」
と言って大家さんは帰って行った。
「なんだ、断ってしまったのか。」
オヤジが言った。
「無理に決まってんじゃん!美沙と家事で、手一杯なんだから。町内会なんて、あり得ない!」
「そうかあ?」
「何を言いたいのさ。」
「いや、お前、美沙を産んでから、雅彦くんやお母さん、雅彦くんのご両親の他に誰かと喋ったことがあったかと思ってな…」
「そう言えば、友達とはラインだし……今のところ、生きている人間で、他に喋ったのは、一ヶ月健診で診てもらった病院の先生くらいかな。」
「そうだろう!」
オヤジは我が意を得たりとばかりに胸をはっている。
「でも、だからって、町内会なんて嫌だよ。」
「いや、俺は、あの大家さん、いい人だなあと思って見ていたんだが…」
美沙が昼寝から起きて泣き出した。
「オヤジ、もういいだろう、この話しは終わりだよ。」
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