第8話

 美沙が目を覚ますと、一気に忙しくなる。オムツをとりかえ、着替えをさせて、調乳したミルクを飲まし、その後は、美沙の機嫌をとりながら家事をする。オヤジは目を細めて美沙を見ているだけで、正直言って何の役にも立たない。邪魔でしかないので、ツケツケと言いたくなる。

「オヤジ、幽霊なんだから、食事はいらないよね。あんたを養うほど、うちは余裕ないから。」

「仕事、辞めたんだったな。」

「そうだよ。妊娠したってわかったら、サアーッとまわりの空気がかわってさ。まあ、無事に赤ちゃん、産みたかったからさ。検診で早産の危険があるって言われた時に、迷わずに会社、辞めた。」

「お前、真っ先に子供のことを考えたんだったら、立派な母親じゃないか。」

「何それ?褒めてくれてんの?そんなこと、どうでもいいから。あのさ、幽霊になって何かのパワーがあるんだったら、お母さん、黙らせてくんない?」

「なるほど。それでは、早速始めよう。まず、お母さんが大量に購入した布オムツ、未使用のもの、ネットで売ってしまえ。」

「えっ?」

「お前、何だかんだ言っても、お母さんに振り回されている。まあ、親に言われることはズシンと重い。反発していても、心のどこかで、親の言うとおりだろうかと思ってしまう。お前は布オムツを使わないことを心のどこかで後ろめたく思っている。ミルクもそうだぞ。母乳を飲ませたら、立派な母親というわけではあるまい。」

 オヤジ、何を偉そうに、と言い返したいのは山々だが、悔しいことに、オヤジの言うとおりだ。私が黙っていると、さらにオヤジは持論を展開する。

「俺達は、自分自身で考えていると思いがちだが、価値観というものは、知らず知らずのうちに、親から与えられてしまっていることが多いからな。」

「はあ!ろくに父親してないくせに!オヤジ、どの口が言ってるんだよ!」

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