第6話
オヤジは神妙な面持ちだ。
「それで、お前の思い通りにできたのか?」
「うん。私、三十歳過ぎてるからさ、いいって言われても、なんだか助産院は不安だったから、総合病院の産婦人科で産んだ。同級生で、そこで看護師してる子がいてさ、別に、普通に自然に産めたよ。ただ、母乳が出なくてさ、あの人に散々言われたよ。大きな病院なんかで産むから、きめ細やかなケアをしてもらえないせいで母乳が出ないって。だけど、同じ部屋に入院してた人達が胸がはって痛いとか言ってたけど、私、最初から胸がはらないし、母乳なんて絶望的。助産師さんがマッサージとかしてくれたけど、出ないんだもん。
赤ん坊って賢いよ。美沙、母乳が出ないってわかると、私の胸を見たら、そっぽ向くんだよ。あの人、無理にでも母乳を飲ませなさいって言うけど、私も美沙もストレスマッハだよ。産婦人科の先生に相談したら、母子ともにストレスがたまるのはよくない、ミルクにしなさいって。
布おむつだってさ、入院中は、業者さんが、汚れた布おむつは引き取って洗濯してくれるからいいけど、家では自分達でしなくちゃいけないし、あの人の言う通りにしてたら過労死するわ。」
気がついたら、涙声になっていた。
「そうか、辛かったんだな。大変だったな。もう大丈夫だ。俺がいるからな。及ばずながら、お前の力になるぞ。」
「今、何て言った?冗談じゃない!どうしてオヤジが口出しするのさ!」
一瞬で涙が止まり、私は叫んでいた。その時、玄関ドアの鍵を開ける音がして、同時にオヤジの姿が消えた。なんだ、口だけか。それより待ちに待った夫のお帰りだ。
「まーくん、お帰り。あのね…」
何やら、背中から気配を感じる。まさかと思うが、振り向くとやはり……
ベビーベッドの柵ごしに見えたのは……
美沙がおめめぱっちりではないか……
「終わった……鍵の音で起きちゃった…」
「そうなのか…あはは…う、嬉しいよ…みーちゃん…」
心なしか、夫の顔が引きつっている。その後、私達が寝ることができたのは、夜中の二時過ぎだった。
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