第4話

 やはり、礼は言わねばなるまい。

「ありがとう。体、暖かくなった。」

「そうか。美沙は天使みたいな顔で眠ってるぞ。本当にかわいいなあ。」

オヤジの目尻は下がりっぱなしだ。

「あのさ、寝てる時は天使なの。泣いたら半端なくすごいんだから。いい時ばっかじゃないんだからね。ところでオヤジ。どうせ化けて出てくるなら、お母さんのところに行けばよかったのに、なんで、私のところなのさ。美沙の顔が見たかったわけ?」

オヤジは頭をポリポリとかいた。

「あちらは……まあ、いいかと……」

「フン、日頃の行いが悪かったから、お母さんの前に化けて出られないんだろう。オヤジ、あのさ、教えてやるよ。あんたが着ている着物、お母さんがお嫁に来る時に持ってきたんだよ。何でも、結婚相手の着物を和箪笥の一番上の引き出しに入れるとかでさ。どうして、生きている時に、たとえ一回でも着てやらなかったのさ。お母さん、死人になったあんたに着せるはめになったんだから。」

「葬式のことは忘れたんじゃなかったのか?」

「さっき、風呂で思い出したから、教えてやってんだよ。」

「ところで、旦那は……雅彦くんは、いつも遅いのか?」

「そうだよ。仕事だよ。仕方ないじゃん。」

「ほとんど一人でやってるんだな。大変だろう。まだ美沙を産んで二ヶ月ちょっとだろう。どうしてこんなに早く戻ってきたんだ。せっかく里帰りしていたのに。」

 私はため息をついた。

「オヤジ、どうやら、どこからか見ていたようだね。まーくんのことも知っているみたいだし……ってことは、私とお母さんの仲の悪さもわかってんだろう?何を言わせたいのさ。わざわざ、お母さんの、自分の女房の悪口を聞いてくれるっていうわけ?」

「そうだ。お前の口から聞く。」

「今まで私の話しなんかろくに聞かなかったくせに、いい度胸じゃん。せいぜい、覚悟して聞くんだね。」

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