第3話

「だいたい、今になって化けて出てくるなんて、どういうつもりさ!オヤジ、あんた、好きなことを好きなだけして、お先に失礼って、最低だよ!それに、私の大学受験とか、就職とか、おじいちゃん、おばあちゃんが病気になって亡くなった時とか、化けて出てくるのに、もっとふさわしいタイミングがあったと思うけど。」

オヤジをにらみつけながら、私は不思議な気持ちになった。オヤジを相手に言いたいことを言ったのは初めてかもしれない。もっとも、相手は幽霊になってしまっているが。

「まずは、風呂にもう一度入れ。」

「はあ?なんで?」

「美沙のことはみているから、ゆっくりお湯につかってこい。」

「オヤジ、偉そうに何を言ってるのさ!あんたなんかに、美沙の面倒をみれるわけないじゃん!」

「そうなんだなあ。残念なことに、俺はかわいい孫を抱っこできないんだ。美沙には俺の姿は見えていない。俺の声も気持ちのいい風のように感じているだけだ。俺の姿はお前にしか見えないし、お前とだけ、話しができるんだ。」

「意味わかんないけど……」

「美沙が泣いたら、知らせてやる。」

 正直なところ、体が冷えている。もう一度ゆっくりお湯につかりたい。

「わかった。せっかくだから、オヤジの好意は受ける。でも、この際、言いたいことは山ほどある。逃げるなよ。」

「逃げるわけないだろう。詳しく話すことはできないが、これでも苦労してお前に会いにきたんだから。」

不本意ながら、美沙をオヤジにまかせて、風呂に入りなおすと、少しばかり気持ちがやわらいだ。


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