やっと出ましたね! センパイ
――日曜日。
学校が休みというのは、いつ来ても良い日だと言えるだろう。好きな時間に起きる事が出来るし、好きなだけゲームが出来るし、友人と遊ぶ予定だって立てやすい。趣味に必要な時間だって取れる事も含めれば、休日を嫌う人は滅多に居ないだろう。
そんな休日をどう過ごそうか悩んでいた結果、ゲームで適当に時間を潰す事にした。ロールプレイングゲームやシューティングゲーム、レーシングゲームと転々と漁るように手を出し続けた。
時間を忘れてやり続けていたからか、気付けば昼食を取らずに夕方近くまで時間が経過していた。何かあるかと思いながら、自分の部屋を出ようとした時だった。自分の机の上にあった物が目に入った。
……どうやら猫のキーホルダーだ。
何処かで見たような記憶があると思いつつも、空腹感に負けて自分の部屋を降りていく。家の中には誰も居ないらしく、あのままゲームをしていたら何も飲まず食わずで一日を過ごしていた事だろう。
そんな事を考えつつ、鼻歌混じりにヤカンに水を注いでいく。遅めの昼食は誰でも簡単に作れる伝家の宝刀、カップラーメンである。火を点けてお湯が沸くまでの間、例の如くゲームアプリを起動して暇を潰す。
ピンポーン……。
まだお湯は沸いていないが、これからカップラーメンを食べる予定だ。もう既にいつお湯が沸いてもおかしくないのだから、わざわざ呼び鈴に応える必要は無いだろう。居留守を使ってしまおう。
無視を決め込む事にしたのだが、すぐにまた呼び鈴が鳴り響く。
ピンポーン……ピンポーン……。
もう一度、またもう一度――しかし、無視し続けていれば諦めるだろうと思った途端である。怒涛のピンポンラッシュが始まったのだった。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン……。
「おお、やっと出ましたね! センパイ」
あまりのしつこさに直接扉を開けると、呼び鈴の前には彼女――向坂夕陽の姿があった。こちらの様子を気にしている様子もなく、「ばんわー♪」といつも通りの元気さで言って来た。
何しに来たのかと問い掛けてみれば、単に「ただ暇だったから」という事らしい。暇だったら家まで来るのかと思いつつ、これ以上の問答は面倒なのとカップラーメンを優先して部屋へ戻る。
「お邪魔しまーす! おお、向坂夕陽inセンパイハウス!……って、センパイ、もしかして今からお昼ですか? 相変わらず不健康代表な生活習慣ですよね、変な食生活してると太りますよ? ――え? 太らないから平気? 今もしかして、あたしにケンカを売りました? 良いですよっ、受けて立ってあげますよ!?」
また意味の分からない理不尽なキレ方をし始めた彼女。そんな彼女を放置して、カップラーメンを大きく一口頬張る。
「じー……あぁ、いやいや、気にしないで下さい。どうぞどうぞ、ゆっくり食べてて下さい。ただ見てるだけなんで。……え? 気になって食べづらい? それじゃあたし、邪魔しないようにセンパイのお部屋に行ってますねー」
そう言いながら二階へ上がる彼女を見届ける。一段、また一段と階段を上がっていく彼女の足音が微かに聞こえる。放置したまま食べるというのも気が引けるので、このまま急いで食べるとしよう。
本来であれば、のんびり食べるつもりだったが……今日は諦めた方が良さそうだ。
◇◆◇◆◇
「ここがセンパイの部屋……うん、センパイの部屋だ」
夕陽はそう言って、あなたの部屋のベッドにダイブした。倒れ込んだ事でスプリングが一度だけ軋むが、すぐに衝撃を吸収して夕陽はゴロゴロと寝返りを打ち始める。
「ふぅ……満足。センパイが戻って来たら……ちょっと、からかって、あそ……ぼ……すぅ……すぅ」
数回ゴロゴロとしてから天井を見つめる夕陽は、あなたの枕に顔を埋めて寝息を立て始めたのだった。
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