第8話 ハイライトに照らされて

「椎名くんや、火ぃつけてくれ」

ため息を吐いて火をつける

「姫野さん、自分でそのくらいやってくださ

 いよ」

姫野さんは俺の言葉なんて聞く耳も持たない様子で煙草を吸い始めた。


そういえば初めてセックスした人ってこんな感じの人だった気がする。

未成年の俺がいるのに同じ部屋で煙草吸いやがって、床にはビールの缶が転がったまま。

ずっと下着だけの状態で、無駄にエロかった気がする。


「うふぇ、寒っ」

年齢的に言えば高校3年の夏、俺は大雨の中外に居た。

両親が蒸発して家を出て、ボロ小屋に勝手に泊まって、そのボロ小屋も最近の台風でグズグズになった。

あー、腹も減ったし、寒い、俺死ぬのかな。

最悪だわ、ゴミ溜めみたいな人生だったわ、

せめて、女一人抱いてから死にたかった。


「ねえ君、生きてる?」

さっきまで体を打っていた雨粒が当たらなくなる。見上げると女の人が傘を差し出してきていた。

「…生きてますけど、なんすか、金なら持っ

 てないっすよ」

 「こんな大雨の中でどうしたの、風邪ひく

  よ?親は?」



「おじゃましやす」

気づけばあの女の人の家にあがっていた。

「ほい、タオル」

 「あざっす」

なんだろう、部屋が汚い。

とにかく汚い、ビールの缶とタバコの箱、

灰皿、台所にはカップ麺の容器が大量に放置してあった。

「部屋汚ねぇっすね」

女の人が目を見開いてこっちを見てきた。

あ、怒られっかな。

「あはは!確かに汚ねぇよね!

 君、よく助けてくれた恩人にそんなこと言

 えるよね!」

なんだかよくわからないが、笑ってる。

怒られなかったからよかった。

「はひ、はひ、はー、久しぶりに笑ったわ、

 あ!そういや君、名前は?」

 「俺椎名涼平、あんたは?」

「私は野坂だよ、野坂恭子」

その後恭子さんは俺に飯を出してくれた。

カップラーメンだったけど。

その間恭子さんはずっと酒を飲んでいた。

夜も更けてきて恭子さんはすっかり酔い潰れていた。

「ねえねえ〜、君はタバコ吸わないの〜?」

恭子さんは俺に寄りかかって煙草を差し出してきた。煙草の箱には英語が書いてあったけど、英語なんてしらねぇから読めなかった。

「俺まだ未成年だから吸わねえよ。なあ、そ

 れよりこれなんて意味?」

 「ああこれ〜?これはねえ、ハイライトっ

  て言う奴!確か1番明るい所みたいな意味

  なんじゃなかったかな〜」

恭子さんは俺の隣で煙草を吸い続けてた。

「涼平くぅん、君ねぇ、そんな言葉使いだめ

 よ?女の子には優しく接してあげなきゃ」

そんなことをぼやきながらどんどん煙草を吸っていった。

煙草の箱が空になる頃には深夜になってたし、俺も眠たかった。

「よーし、涼平くん!深夜に男女で二人き

 り!こうなりゃやるこたぁ一つ!」

そう言うと恭子さんは服を脱ぎ始めて下着だけになった。

そして、俺を押し倒して馬乗りになった。

「楽しい夜になりそうだね」

それが俺の初夜だった。


「ねえねえ、昨日私とヤッた?」

次の日の朝、真っ先にそんなことを聞いてきた。

「ヤッた」

 「マジかよ、君未成年っしょ、やべえ普通に犯罪じゃん」

恭子さんはそんなことを言いつつ俺を家に置いてくれた。

恭子さんは午前中仕事に出ていて家には一人だった。

そんな時俺は何をするでもなく、ただ恭子さんを待っていた。


俺が恭子さんの家に住み着いてから一週間ほど経った頃、俺は思い切って聞いた。

「なぁ、助けてくれたのはありがたいんだけ

 どよぉ、お金とかって…」

その時も恭子さんは大きく笑った。

「君みたいな子供がそんなこと気にするもん

 じゃありませんよ!それに、私、実はお金

 たくさんあるんだよ!」

その日も俺達はセックスをした。


「ただいまー」

恭子さんが帰ってきた。

「おかえりなさい」

 「んお、なんかいい匂い」

それはそうだ、何故なら今日は俺が晩飯を作ったから。

「すごーい!これ涼平くんが作ったの?」

恭子さんは嬉しそうにしてくれた。

「えへへ、偉いなぁ涼平くんは!」

そう言って恭子さんはおれの頭を撫でた。

「やめてくださいよ!俺そんな歳じゃねぇっ

 すよ…」

 「にひひ」

その日も俺達はセックスをした。


「俺、大人になったら東京に行ってみたいん

 っすよ」

 「ほーん、いいんじゃない?」

「俺の親、蒸発した時、東京に言ったらしい

 んすよ。だから、また会いたいなって」

 「蒸発したのに会いたいと思うわけ?」

「違いますよ、ぶん殴りに行きたいんっす。

 そん時は恭子さんも一緒に行きたいっす」

恭子さんはその時また笑った。

でもいつもみたいな大笑いではなかった。


恭子さんと暮らし始めてから半年くらい経った。

料理も上手くなったし、洗濯や掃除まで最近では俺がこなす様になった。

その日はいつもみたいに恭子さんが仕事に行って、俺は風呂掃除をして、洗濯物を畳んで、夕食の準備をした。

でも、いつまで待っても恭子さんは帰ってこない。

ゆっくりと時間だけ過ぎてゆく。

一度、恭子さんの帰りが9時過ぎまで遅くなった事があった。だから今日もそうなんだと思った。

10時を過ぎても恭子さんは帰ってこなかった。


しばらく経って、家に手紙が届いた。

中には銀行のカードと家の鍵が入っていた。

それと、どこかわからない海外の写真のポストカードには

「もう君には会えない。私は今シンガポール

 にいます。

 煙草が似合うエロい男になりな」

とだけ、綴られていた。




外は雪が降っている。

女を抱きたい。

いや、恭子さんを抱きたい。


「寒い」

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スモーク 三角 @sankaku102

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